<十月集>

もう愚痴を聞いてはくれぬ母となりひ孫の話をすれば笑ひぬ   西川直子

一升瓶西瓜赤飯はしゃぐ子ら祭りはいつも一気に昭和   原田勝子

亡き夫のノートより落ちし白黒の写真に少女のわたしが笑ふ   瀧澤美智子

欠席をしたこと誰も責めないが勝手に孤立している私   菊池理恵子

口、口、口まあるい口が寄ってくる押し合ひへし合ひ重なる鯉の   杉山やす子

シロップとミルクをそそげばはつなつの雪ぽっかりとぽっかりと浮く   立花開

早や三年まざまざと残る七夕の記憶は吾に呼吸ある限り   磯良枝

<作品Ⅲ>

憂鬱を支えてくるる『ぐりとぐら』声出して読む深夜の月に   服部智

飼い主の涼しい顔のずっと下トイプードルの足の忙しさ   高野香子

好物のつるむらさきを摘みしとき青虫になったような気がする   小原守美子

狸棲み雉棲み蝮潜むところ「玉虫見つけた」夫が持ち来る   香川芙紗子

意地っ張りも歳を考へなさりませ丁寧言葉がなほさら悔し   伊藤宗弘

地下鉄で会ったせんせい微笑んでどうやら雨はふらないようだ   小林樹沙

水瓶に青空映す中に浮くアナカリスの花初夏に小さき   稲熊昌広

五百円のブルースハープでドを吹けばたちまち飽きて本棚の上   伊藤博美