<十七人集>
園児らのラジオ体操する庭にゴーヤの苗も双葉伸ばせり   小出加津代

校長室に二十余年を掛りゐし写真返さる閉校の日に   草野豊


<作品Ⅱ>
しつかりと添へ木につるを絡ませて鉄せん咲きつぐ濃い紫に   長戸良枝

我が身体魚臭にまみれて三十年定年を期に魚臭を流す   小林専一

雷と雹の過ぎたる夕暮れに東の空に大き虹立つ   藤原つや子

母の日にカーネーションの一鉢を自分に買いて空のまぶしき   高尾明代

新婚の二人の暮しの始まりにピアノ置いたり小さな借家   塙紀子

早朝の電話の音に飛び起きぬ娘にあらず何故かほっとす   南部晴美

<八月集>
家なかを鳴神【なるかみ】のごととどろかせ男力に掃除機廻す   久我久美子

窓開けて胸に深々と息吸えばわれはたちまち五月の若葉   袴田和恵

透きとおるガラスみたいな目をもって童貞野郎よぶつかってゆけ   小林樹沙

<作品Ⅲ>
何事もスローモーション見る如き父の動作の優しくなりぬ   小澤光子

日食を見ている間に納豆のおかかを猫がまあるく食べる   北川けい子

ゆるゆると博士とひと日を里山に宝の薬草教わりめぐる   服部智

五年ごと更新されし運転免許証【めんきょしょう】の顔写真にみる私の劣化   栗本はるみ

老い母は電話にラジオの不調言う深夜便聞けぬ夜をおそれて   佐藤典子

原発の風評のなかに畑掘りただ吾のみの大根を蒔く   大場實子

ほうと鳥呼べば来るとてほうと吾呼ばれたるらし檜葉が薫りぬ   井出博子

九万円拾つて届けた御礼にと貰ひしケーキよケーキ屋潰れる   香川芙紗子

あと二ヶ月何もなければ完治ですと言う医師の歯の白しみるなり   遠藤良子

非常勤講師は甘えか出勤簿に飛び石のごとく「田口」を捺して   田口綾子

街路樹の新芽を鴉ついばみぬ首を傾げつ二つ三つ喰う   稲熊昌広