7月号の作品①
<作品Ⅰ>
退院の車降りたる眼交を鶺鴒つつと走りてとまる 橋本喜典
聞き役に徹してをれば鉾先が向けられてくるどの問ひ掛けも 篠弘
センセイとときに見下げて男言ふ娼婦を姫と呼ぶ地方あり 関とも
九十歳【きゅうじゅう】に九十歳なりのすばらしきX【エックス】のあり誰にもひみつ 小林峯夫
火葬場の待合室の窓に見えキブシが稚きみどりを垂らす 大下一真
巨きなる月を抱けるはつなつの夜空や死者のさながら恋し 島田修三
戦争に往きて負けたるたらちをは痩せて筋肉なんかなかつた 柳宣宏
二男との真夜の電話を眠剤となしてベッドに今日の灯を消す 澤井朝子
誰か居て誰もがをらぬ場所として非番の午後に来るグランカフェ 井野佐登
大空の円弧の縁をたどりゆく機影ひとつが轟きを呼ぶ 柴田典昭
サクラソウに淡き緑は集まりて支うるごとし花の一つを 今井恵子
いのちあるときは護られゐし君の個人情報話題にのぼる 河原文子
水草に潜みおりしか残り鴨やおら飛びたつわれの歩みに 曽我玲子
<まひる野集>
ゆたかなる藤なみの花と並び咲く微乳のごとき房を愛しむ 加藤孝男
幸福とはかくなるものかアイロンをかくる蒸気の匂ひに目覚む 岡本勝
まっさきに逃げたかりけん海に向く七万本の高田松原 市川正子
ゆるやかな雲の流れに回りゐる観覧車とふ天の水車は 升田隆雄
猫又は気品に溢れ尾を上げて肛門見せつつわが前を行く 高橋啓介
音もなくほわりと明るくなるときのLEDの間合ひたのしき 柴田仁美
<マチエール>
わがうちの鷹ときはなつ肌寒き五月の朝の青のまばゆさ 後藤由紀恵
雨の音ならず雨のどこかに当たるおと乳歯のようなさみどりは萌え 富田睦子
ベランダに風が終わらず丸い背の汗を吸いたる毛布も揺れて 染野太朗
金魚売るひとの口腔せわしなく開閉し音の礫を投げる 米倉歩
ゴールデンウィーク前夜のおさなごはフルートかまえる姿に眠る 木部海帆
野菜室あければそこは翠緑のうねりの如くひろがるきゅうり 山川藍
深海の静けさにいて誰からも探されやしないのもなんかやだ 小瀬川喜井
ひそやかに笑みをふふめる卵らよ もの言わぬ物みな煩らわし 佐藤華保理
風邪の日のやや上品なふるまいの吾はため息つきつつ歩めり 加藤陽平
生きようと欲する苦さ山菜を食む時山の土の香感ず 宮田知子
燃えているテントウムシが燃えている基礎も解らず悩む姿が 倉田政美
われもまた透けてさらさる さみどりの電話を孕む柱のなかに 荒川梢
履歴書を7枚書いて終わりたる春の証として豆を煮る 稲本安恵
先輩と後輩の話をうんうんと聞いた私のぐちは誰聞く 小原和
<十五人集>
会釈して隣の席に座りたる老女うつうつ居眠りはじむ 関本喜代子
まだ旅に出ない息子と見る桜海に散りゆき海は受けとむ 大野景子
大川のさくらまつりが終了す被災後咲ける少しを愛でて 広野加奈子
病む母の溜め息きく夜のふかき闇しばし間をおき布団を直す 橋本恵美子
血管注射入らない皺を伸ばしてとベテランナースは大き声上ぐ 上鵜瀬勝子
メモ帳に夫の手を描き時すごす診察までの待合室に 齋藤愛子
<作品Ⅰ>
退院の車降りたる眼交を鶺鴒つつと走りてとまる 橋本喜典
聞き役に徹してをれば鉾先が向けられてくるどの問ひ掛けも 篠弘
センセイとときに見下げて男言ふ娼婦を姫と呼ぶ地方あり 関とも
九十歳【きゅうじゅう】に九十歳なりのすばらしきX【エックス】のあり誰にもひみつ 小林峯夫
火葬場の待合室の窓に見えキブシが稚きみどりを垂らす 大下一真
巨きなる月を抱けるはつなつの夜空や死者のさながら恋し 島田修三
戦争に往きて負けたるたらちをは痩せて筋肉なんかなかつた 柳宣宏
二男との真夜の電話を眠剤となしてベッドに今日の灯を消す 澤井朝子
誰か居て誰もがをらぬ場所として非番の午後に来るグランカフェ 井野佐登
大空の円弧の縁をたどりゆく機影ひとつが轟きを呼ぶ 柴田典昭
サクラソウに淡き緑は集まりて支うるごとし花の一つを 今井恵子
いのちあるときは護られゐし君の個人情報話題にのぼる 河原文子
水草に潜みおりしか残り鴨やおら飛びたつわれの歩みに 曽我玲子
<まひる野集>
ゆたかなる藤なみの花と並び咲く微乳のごとき房を愛しむ 加藤孝男
幸福とはかくなるものかアイロンをかくる蒸気の匂ひに目覚む 岡本勝
まっさきに逃げたかりけん海に向く七万本の高田松原 市川正子
ゆるやかな雲の流れに回りゐる観覧車とふ天の水車は 升田隆雄
猫又は気品に溢れ尾を上げて肛門見せつつわが前を行く 高橋啓介
音もなくほわりと明るくなるときのLEDの間合ひたのしき 柴田仁美
<マチエール>
わがうちの鷹ときはなつ肌寒き五月の朝の青のまばゆさ 後藤由紀恵
雨の音ならず雨のどこかに当たるおと乳歯のようなさみどりは萌え 富田睦子
ベランダに風が終わらず丸い背の汗を吸いたる毛布も揺れて 染野太朗
金魚売るひとの口腔せわしなく開閉し音の礫を投げる 米倉歩
ゴールデンウィーク前夜のおさなごはフルートかまえる姿に眠る 木部海帆
野菜室あければそこは翠緑のうねりの如くひろがるきゅうり 山川藍
深海の静けさにいて誰からも探されやしないのもなんかやだ 小瀬川喜井
ひそやかに笑みをふふめる卵らよ もの言わぬ物みな煩らわし 佐藤華保理
風邪の日のやや上品なふるまいの吾はため息つきつつ歩めり 加藤陽平
生きようと欲する苦さ山菜を食む時山の土の香感ず 宮田知子
燃えているテントウムシが燃えている基礎も解らず悩む姿が 倉田政美
われもまた透けてさらさる さみどりの電話を孕む柱のなかに 荒川梢
履歴書を7枚書いて終わりたる春の証として豆を煮る 稲本安恵
先輩と後輩の話をうんうんと聞いた私のぐちは誰聞く 小原和
<十五人集>
会釈して隣の席に座りたる老女うつうつ居眠りはじむ 関本喜代子
まだ旅に出ない息子と見る桜海に散りゆき海は受けとむ 大野景子
大川のさくらまつりが終了す被災後咲ける少しを愛でて 広野加奈子
病む母の溜め息きく夜のふかき闇しばし間をおき布団を直す 橋本恵美子
血管注射入らない皺を伸ばしてとベテランナースは大き声上ぐ 上鵜瀬勝子
メモ帳に夫の手を描き時すごす診察までの待合室に 齋藤愛子