5月号の作品①

<作品Ⅰ>
階段をひとつひとつと降りてゆく急ぐこころを引き戻しつつ   橋本喜典

シクラメン萎ゆる花茎抜き取らむそのひとときのあらがふ力   篠弘

胃袋はごみ箱じゃないぞと言いきかせ焼いたししゃもの二つを残す   小林峯夫

白鳥の一羽ただようさびしさを知りて短歌を作り始めし   大下一真

さういへば「女だてら」も死語となりだらだら坂をわが下りつつ   島田修三

ゆるやかな坂をのぼりて一歩づつ青くてまるい山に近づく   柳宣宏

自らの重みに倒れし水仙の七、八本を束ねて飾る   井野佐登

虹橋を見んと「清明上河図」の長蛇の列の虫に紛れつ   柴田典昭

痩せぎすの背高き獅子が口開けて夫の頭【こうべ】を真上より咬む   曽我玲子

デイケアの玄関に熱帯魚の水槽が置かれて俄かに楽しくなりぬ   加藤須磨子

飲み易くとろみをつけて水飲ます母が飲み込む音に聞き入る   三宅昭久

<作品特集>

原子炉を内視鏡にて見る画像何もわからぬことのみわかる   市川正子

風呂焚きは夫に譲り湯加減の上々なるを先にいただく   稲葉範子

墓石よりはらい落とせる雪のおと耳に澄むとき母はわがもの   今井恵子

ケイタイで声高にしゃべるOLの明日の予定をわれも知りたり   岡部克彦

手探りに出口をもとむる母たちの時の流れや 鳥の目の欲し   柴田仁美

大揺れの工場の庭に立ちしこと前工場長が話しかけくる   清水篤

あずさゆみ春の白飯【しらいい】炊きあがり部活帰りの娘の声す   広坂早苗

夢にみる人はやさしく飽く迄も海はあかるく彼【か】の日巡り来   広野加奈子

ひととせに二度逢ふのみの幼らはわれより速き時間を持てり   升田隆雄