4月号の作品②
<十八人集>

正面のあなたの心は見えないが碁を打つ時の脇の甘さよ   大野景子

<作品Ⅱ>
一粁を三分弱で駆け抜ける選手ら吾には異界の生き物   武井則子

二女はいま七十歳にて時節柄英会話など友を増せり   山口たま子

「ほら雪よ」と庭より姉のはずむ声津波のがれきの片付ける庭   野田秀子

色々と恵まれよとの名づけらし妹「恵子」の料理は美味い   鈴木理恵子

炬燵には足が六本それぞれが互いに邪魔だと文句言いつつ   田上郁子

新雪をブーツの底に踏みしめて何か仕返しした気分なり   入江柚子

<四月集>
夢の覚め夜更けひとりの水を飲む思へば夢に桜散りゐき   久我久美子

物干しに板のごとくに凍りゆく寮生みなの白きエプロン   横山利子

一日も早く母乳をやりたしと二日目の母窓の外見る   小澤光子

<作品Ⅲ>
かぜひかぬようにしてねとそっと肩いだきてくれぬ近所の主婦が   阪上茂子

軽やかに「腹出てきたな」と声のして受付のわれ腹をへこます   服部智

レース越し冬陽を受けて老い猫は仔猫にかえり丸まりて寝る   岩澤道夫

野晒しにせしわが顔に農閑期母がすすめるクリームすりこむ   小原守美子

人込みのなか盲導犬の歩めるを見守りゐたり犬飼ふ我は   槙茜

川に沿ひ貴船を歩く神駒【かみこま】の土鈴に春をふりこぼしつつ   井出博子