2月号の作品③

<マチエール>

できるだけ明るい色のマフラーを選びなさいと電話の母は    後藤由紀恵

私の語調まねする子とおればめぐり流れる言葉の渦は   木部海帆

教壇に黒板消しを拾い上げおまえも死ねと言ってしまいぬ   染野太朗

半身を捨ててあかるき上弦か 母と呼ばれることなき一生   米倉歩

アドベントの一つとして塗るマニキュアのラメはわたしの鱗であろう   富田睦子

急行を抜く特急のがらがらでふかふかの席にスカッとしたり   小島一記

知り合って長き同僚うっすらと砂ぼこりのごと老いは来ており   佐藤華保理

「別にいいよ、別にいいよ」というわれの「別に」の中身われこそ知りたし   大谷宥秀

空っぽのペットボトルをへこませて手になじませて豊かな夕べ   加藤陽平

挨拶をしても返さぬ少女からただ一度だけ「お母さん」と呼ばる   倉田政美

砂時計をひっくり返しさらさらと落ちゆく砂と共に落ちゆく   川嶋早苗

遅れたる少女の息が迫り来て過ぎゆくまでをわれ無色なり   稲本安恵

長ネギがカゴからニュッと顔を出す今日は特売三十八円   小原和