2月号の作品②


<十八人集>


母の焼きし大きなつぼの郵便受け見る度思ふ手紙を書かむ   坂田千枝

焼き魚をグリルに忘れたるままに今朝の食事を終えたりわれは   すずきいさむ

道端に秋日を浴びて目閉ぢゐる猫と石仏みな撫でてゆく   相原ひろ子

風寒く軒にすがりし蟷螂がわれを見てゐるみどりの目をして   関まち子

わが厨元気製造所と名づけたり自家製野菜コトコト煮つむ   豊田麗子

運河悪かつたと今日を片付けてくくくと笑いとばす冬の夜【よ】   近衛綴

橋の上よりわれは見ており救急車が母校に入りゆきて音止み   東島光子

<二月集>

ここへ来て足を洗へと呼ぶ叔母の声はほのぼの亡き母に似る   久我久美子


鄙びたるうす紫の花咲くとシアトルにゐる夫に告げやる   秋元夏子


病床に父は衰へタンポポの綿毛のごとく喘ぎかそけし   久下沼満男


〈作品Ⅲ〉


いにしえの光君より継がれ来し恋は孤悲なり萩尾花抱く   上根美也子


耳遠き夫に声上げれば低くとも優しく言えば聞こえると言う   福井詳子


帽子六つ裏に陽を当てならびをり夏より冬に季節【とき】のうつる日   坂井好郎


佳き本の高値を知りてつんのめり金柑などを買ひて帰りぬ   井出博子