1月号の作品①
<作品Ⅰ>
むらさきしきぶが水引草【みずひきぐさ】によりそひて遠き先祖を語りてゐるも 橋本喜典
さまざまに路上を限る白線を白馬となりて駈けりてゆくや 篠弘
これほどに空は青くて広きかと「草津白根」の肩に見上げぬ 関とも
話し中何度かけても。この人も寂しいのだな窓うつ木の実 小林峯夫
踏み切りに電車過ぐるを待つしばし木犀の香のふいに運ばる 大下一真
あしたより欠伸とどまりあへざれば蘇婆訶蘇婆訶と唱ふる俺は 島田修三
海を見る馬の目は澄む戦ひに挑まむとするクォーターバックよ 柳宣宏
アカパンサスと覚えし友が青い花なのにと呟くホームの庭に 澤井朝子
老人とうことば冠する発表会市の文化祭に参加を決むる 雨宮梅子
わたくしの口の動きを真似せよと口の中まで開く先生 八木八重子
遠き日にここより白砂(はくさ) 大松は昔の浜を偲ばせて立つ 井野佐登
今は亡き夫にと付けし階段の手すりに触れつつ二階へ登る 山田紀子
長き時を地下に流れてゐたる水きらめき出づる大地震(なゐ)のあと 中根誠
何処まで雑草ならむ犬蓼の紅き小花に刈る手を休む 柴田典昭
ちかぢかと羽音のたつに驚けば空の曇りに電線揺れぬ 今井恵子
立ち上り歩めるまでに導きし療法士青年と握手し別る 大橋順子
若き日に惜しみ着ざりし衣服着て見る人のなき山家をを棲めり 篠原律子
南座に見し満月の鬱金いろ貼りつきている瓦の上に 曽我玲子