<作品Ⅱ>
東窓の南部風鈴久々に鳴るを聞きつつ冷麦茹でる 村田安代
遠き地の孫の息災願ひつつ淨行菩薩の御身体洗ふ 多々井克昌
一年に一度日本へ歸るのみが楽しみとする姉の一生 三橋節子
黒雲が天井のごとくなりし時一人一人の傘が鮮やか 中沢隆
携帯の待ち受け画面はわたくしの種から育てたアボガド二本 高尾明代
草刈りが生き甲斐と言う友がいて「くさかりまさお」と名告りいるなり 鈴木瓔子
はやく来い畳の上に蜘蛛がいる妻はゆっくりゆっくり来たる 三宅昭久
新聞を読みつつ夫は 大声で笑い私の気を引いている 重本圭子
<十二月集>
亡き夫(つま)が手にて二つに割つてゐた福島の桃コリコリと食む 栗本るみ
はるかなる原産国を聞きし後青き器に岩塩を挽く 須藤とも子
彼岸花にみたらし団子似合ひたりすこし固きを母は好みし 柴田仁美
いく重にもシワ刻みたる手の甲を何度も撫でる話したくない時 北川景子
<作品Ⅲ>
こんなにも夏の散歩をする人がいたかとおどろく午前の六時 坂斎久鼓
新聞の女の写真の胸元の影を探れば裏面の文字が 加藤陽平
この星に海は鳴りつづ糠星の爆ぜたるのちのかけらに生れて 井出博子