<まひる野集>


白鷺は立ちいることを忘れおり日がな雨ふる青田の中に   市川正子

道ありて人家の見えて人あらず藍色深き山のまひるま   麻生由美

種を蒔く鋤く刈る束ぬ、土香るスケッチあまた若きゴッホの   升田隆雄

<マチエール>


誰からも(まして海から)離れよと赤く大きな矢印がある   後藤由紀恵

芦田愛菜かわいいなどともし兄が言ったらどうしようゾンビ見る   山川藍

むなもとの煽情的な虫刺され跡見おろしてゆく四谷まで   米倉歩

鍵盤を歩くように子はうたう音はずれたる自作の歌を   木部海帆

紫陽花にとどまりきれず雨粒が君の左の靴を濡らした   染野太朗

雑草とくくられる草それぞれに光を返す夏の避暑地に   富田睦子

ミラーごしに揺れいる父の寝顔なり時折違う世界の人なり   小瀬川喜井

TVには出られぬ二十何人のそれぞれの歌つくりたきかな   稲本安恵