まひる野集
居間に灯をともさむと娘の仏壇の抽斗に探すミニ蝋燭を 岡本勝
そうなのだ昼より夜は暗いのだ街路樹は樹にもどりて芽吹く 市川正子
帰国してもはや会ふなき誰とだれ指折りながら七名を呼ぶ 竹谷ひろこ
スーちゃんに熱狂したる友ありきいずくに生きて何をしおるや 高橋啓介
九・一の震災記念日亡き母はいつも梅干おにぎり作る 齊藤貴美子
マチエール
会いたいと焦がれて会ったはずなのにもう帰りたい、そのような日々 染野太朗
豆腐屋のおまけの飴を期待して歯抜け娘は二歩前をゆく 富田睦子
春なれば発芽する子か一昨日はボタンをはめることができたり 木部海帆
シナモンをまきちらかしつつ笑う時原発近くで働く誰か 小瀬川喜井
猫もそうなるよと言いし友人の兎は二週間後に死んだ 山川藍
布団からはみ出る手足するすると縄文杉に巻きついている 稲本安恵
真昼間の月にあいたし欲望がひどくきたない家路をいそぐ 川嶋早苗