作品Ⅰ


防護服の白きに固め放射能下にたたかふ人らの顔は見えざる 橋本喜典


知る店の少なくなれり八階のいつものバーに火の酒酌まな 篠弘


死者二万言うはやすけれみちのくの被災地にまた雪横なぐり 大下一真


さういへば相撲のことも忘れしめ他界のごとき春ぞ長けゆく 島田修三


シェパードが四本の足弾ませてひと二人分のスキップをする 柳宣宏


本箱の本うしろへと押しもどす一斉にずれて身をよぢりをり 三浦槙子


しみじみと坂上二郎を悼みたる午後の日射しを歪め大地震(おほなゐ) 柴田典昭


草原の淡き光を踏みながら両手に重し葡萄一房   今井恵子


乾上がるまで琵琶湖の水を吸いあげて空翔けゆかん神話の世では   曽我玲子


川岸に人かげ稀に現れてつくしをつむやかがまる姿   加藤須磨子