作品特集


明けやらぬ電車の窓より雪道の事故現場動画のごとくに過ぎる   稲葉範子

「寒いけどみんな元気」と返信すみんなとは我ら夫婦とチワワ   小林信子

霙降る小路の無人販売に菊を購ひ亡父(ちち)を訪ねむ   柴田典昭

明日よりはもう会わぬこと最大の賜物(たまもの)として卒業の日過ぐ   広坂早苗

病窓(まど)に見る弓張山のスケッチに一句添へたりN氏は笑みて   升田隆雄

まひる野集


身に添える携帯ゆえに全身を震わせながらわれを呼びいん   市川正子

吹雪たる歩道に転び見上ぐればわが身は軽ろく宙(そら)に吸われつ   高橋啓介

あわあわと地に触れ消ゆる夜の雪一人の死を受け入れがたく   滝田倫子


マチエール

地震(ない)続く停電の夜をおさなごは案外眠る春の池なり   富田睦子

Nattoやumeboshiを食う奇っ怪な人間として教壇に立つ   米倉歩

校庭へ避難している塊の黒にわが子の顔一つあり   小瀬川喜井

いちだんと太れば指を切り落とす夢その切り口にあふれるあんこ   山川藍

コンセントの穴見つめれば闇の奥そのまた奥に原子炉の見ゆ   大谷宥秀