作品Ⅰ


けふ一日『茨木のり子』とすごしたり雪降る窓に眼をやすめては   橋本喜典


はしなくも眼鏡が濁り指さきにめがねぬぐひて弔電をうつ   篠弘


喜びも憂ひも共に淡くなる身の衰への進みゆくまま   関とも


ま夜中に醒めて四時まで また今日も二度寝の昼前寝太郎である   小林峯夫


ひたすらに生き来しならね箱根路をひたすら走る若者は好き   大下一真


キャンパスの西のはたての一隅にひねもす籠りうつしみ俺は   島田修三


七人がテロルに死せり七分の一のいのちといふものぞ無き   柳宣宏


曲ぐるたびコキンと鳴くは棲みつける鼠ゐるらしわが膝がしら   三浦槙子


曾祖母と握り合ふとき子らの手に電流しづかに流れてをらむ   柴田典昭


どの家の門にも雪の盛りあがり息を潜める寡婦おおき村   曽我玲子