作品Ⅰ


木の葉髪は冬の季語なりしろがねのひとすぢ光るをを床に拾へり   橋本喜典

二階にも花壇のありて晩夏より手の入らざれば花殻散らす   篠弘

もち肌の水の手ざわりクロールの右手左手すべらせながら   小林峯夫

この海の彼方兵器を養える国ありと見る直江津あたり   大下一真


忘れむとわがしてをれば銀杏はかそけくにほひ日々の徒労や   島田修三


中年のうしろめたさや疚しさやうどん啜れば洟みづが落つ   柳宣弘


大いなる手に下ろされてふかぶかと葡萄の房は横たわりおり   今井恵子


小さき胸に蝉のぬけ殻かざりやる七つ並べて泣きだすまでを   曽我玲子


安らかに『全歌集』の中に夫生きる妻の私も軽やかに残生   川口二三子