マチエールより


ぎりぎりの軍手をはめて作業せりこういうところ君には見せず   小島一記


駅前のヴィドフランスに人待ちの顔して食べるあんぱんひとつ   後藤由紀恵

北側と南側とで鳴いている虫は違えり窓開けて聞く   富田睦子

日曜の職員室でひとり読む絲山秋子『妻の超然』   染野太朗


はろばろとこころ放てよ海原が見えてくる車窓に広がってくる   米倉歩

夫とわれを夫婦にしてゆく転勤や語りつつ食ぶ最後に新そば   木部海帆

零点と言われたことを忘れない男だろうと思って言った   山川藍

真夜中のベッドに横たわるときに背中の腫瘍が存在をます   佐藤郁里