特別作品(まひる野賞応募新人作品)より


父が乗る黒い車はその胴に五月の空を映してゆけり   小原和


面接の前に立つわれは竹槍でB29とやり合う気持ち   倉田政美



まひる野集より


かの夏のわが引つ越しを手伝へる六十代の美(は)しき盛りに   加藤孝男


むっと咲く栗の花房胸ぐらを鷲づかみする寝苦しき夜   市川正子


罵るといふはなけれど論のこゑ絶えざる家にて言ひし時あり   麻生由美


生卵の殻を割りたる両の指の先は濡れぬれて白き糸曳く   高橋啓介