10月号の作品Ⅰ欄より


万歩計は電池の切れて一歩すら刻まねどいのちの切れしにあらず   橋本喜典


路地あれば路地に入りゆく街歩き手づから造るチーズが匂ふ   篠弘


池占めて真白き蓮を渡り来る風よ原爆落とされたる日   大下一真


『万葉集總索引単語篇』机上にしづもり祖父(おほぢ)のごとしも   島田修三


受験者の数を数(よ)みつつ 会ひたい 受験期に咲く白梅の花   柳宣宏


孑孑(ぼうふら)を喰へと飼はれし魚ゐきあれはカダヤシ目高に似れど   三浦槙子


ホームレスも鳩もひしめきゐたるころ健やかなりき上野の地霊   中根誠


果てしなき空は葡萄の色に澄み葡萄の房のごとき白雲   柴田典昭


荒川の上空占めて打ち開き大玉花火のかがやき降(くだ)る   今井恵子


逆上がりできずに泣きし夏のあり日傘をさして髪染めにゆく   曽我玲子