うちの父は自営業だった。
母は父を手伝って、
父と朝からでかけた。
学校から帰ると
もちろん母もいなくて
私は鍵っ子だった。
寂しいと思ったこともあった。
うちに帰ったら
友達のように
母がいてくれたらなー。
休みの日くらい
出かけないで
一緒にいてほしいなーって。
でも
子どもながらに
思ってしまったのだ。
お母さんも働いていて
大変なんだから
息抜きもしたいよね。
そして、いつしか
物分かりのいい
子どもになっていった。
大人になって気づいたことがあった。
働いていた母をもつ子どとして、
私がもっていた思い込み…
「お母さんが働いていると
子どもは寂しい…」
みんなそうだと思っていた。
でも、ある日私は
ある人から
大きな影響をうけた。
仕事で知り合った男性と
話していた時だった。
たまたま自分の
子どもの時の話を
したことがあった。
母が働いていて
いつもいないから
寂しかった、
と話した時、
彼は驚いたように
こう言ったのだ。
「なにが寂しいの?
お母さんが働いてて
寂しいなんて思ったこと
一回もないわ。
友達のお母さんみてて
なんでお前んちの母さん、
働けへんの?と、
いつも不思議に思ってた」
その一瞬、時間がとまった。
え…寂しくないの⁈
親が働いていて家にいなくても
寂しくない子どももいる。
衝撃だった。
みんな一緒だと思ってた。
みんな寂しいと思ってた。
どこかで
可哀想だと思っていた。
だから、
自分も大人になったら
働かないで、
家で子どもをもつ母親になろう!
と心に決めたいた。
でも…
寂しいことでも
悲観することでも
何もなかったんだ。
うちの母は
働いていた。
ただ、それだけのこと。
私の中で
長い長い時間をかけて
作り上げられた
思い込みがはずれた瞬間だった。
