祇園精舎(祇樹給孤独園精舎)の設立

 

祇園精舎の鐘の声(こえ)、諸行無常の響きあり。 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらはす。 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。

 

平家物語の書き出しの部分(だそう)ですが、祇園精舎の鐘とはどのような音色だったのですか、という質問を受け、鐘については、いまは触れず、祇園精舎(祇樹給孤独園精舎 ぎじゅぎっこどくおんしょうじゃ cf. Jetavane ’nāthapiṇḍadasya-ārāme)の設立に至る経緯を『佛所行讃』を抜粋しながらですが、少しだけ読み、学んでおきましょう。『大智度論』についてもそうですが、日ごろより、つばめ堂通信さまの国訳・解説を参照させていただいています。とても、とてもありがたいことです。

 

園精舎、給孤独園精舎は、精舎の寄進を行ったお二人の名前が入っていること、場所はコーサラ国にあることなど、祇園精舎設立に先だって、マガダ国の王舎城に竹林精舎が建立されていたことなどが大切です。さらには、給孤独長者も、陀太子もはじめは、お釈迦さまのことを知らなかったという事実、すなわち、祇園精舎設立以前、コーサラ国には未だ仏教が伝わっていなかったという認識も得られえます。

 

馬鳴造 曇無讖訳『佛所行讃』(No.192, vol.4)化給孤獨品第十八

(34b07)時に大長者あり 名を給孤独(Anāthapiṇḍada、身寄りのない者に施しをする者)という(b08)巨富にして財、無量なれど、廣く施して貧乏を救う

 

(b09)遠く北方の憍薩羅(コーサラ)國より來りて(b10)一知識(= 良き友)の舍に止まれり、主人の名を首羅(*Sura)という。(b11)佛(ブッダ、さとれる者)、世に興りて、近く、竹10林(Venuvana-vihāra迦蘭陀長者の所有)に住まると聞き、(b12)名を承けて、其の徳を重んじ、即ち夜に彼の林に詣(いた)る。

※夜半を待って訪問するということ、です。


(b13)如來は、已に彼を知らく、根熟して、淨信生ぜり(b14)宜しきに隨いて、其の實を稱え、爲に法を説いて言わく、

※お釈迦さまは、長者が来ることを察知しており、法を説きます。(説法の内容は割愛します。)

    
(給孤獨を讃える)

廣く惠を行じ、周く貧窮に給して、(b21)名徳、普く流聞せる 

 

   

(34c14)長者は説法を聞いて、即ち初果(= 預流果)を得たり、(c15)生死の海は消滅し、唯だ一滴の余有るのみ

 

(長者は精舎の寄進を申し出る)

(35c20)長者、心開き解け、勝妙の義に通達せり。(c21)一相の實智生じて、決定して眞諦を了れば、(c22)世尊の足に敬禮し、合掌して啓し請わく、(c23)居は舍婆提(シュラーヴァスティー)に在れば、土地豐かにして安樂なり(c24)波斯匿大王(プラセーナジットPrasenajit)は師子4族の胄(ちずじ)にて、(c25)福徳の名稱流れて、遠近に宗敬さる。(c26)精舍を造立せんと欲すれば、唯だ願わくは哀愍して受けられよ。    
(c27)佛心は平等にして、居る所、安ずることを求めず、(c28)彼の衆生を愍むが故に、我が請う所に違いたもうな。 

   

 

(長者の寄進を讃える)
(c29)佛、長者の心を知らく、大施、今において發(ひら)きぬ。(36a01)染無く、著せらるる無く、善く衆生を護る心なり。

 

 

(布施の功徳)
(36a08)時に應じ、器に應じて施せ、健夫の、敵に臨むが如く、(a09)能く施し、能く戦うは、是れ則ち勇慧の士なり。(a10)施は衆の愛する所なれば、 善く称えて廣く流聞す、(a11)良善の樂をば友と爲せ、命終らば、心常に歡び、(a12)悔なく、亦た怖なく、餓鬼趣に生ぜず。

 

(舎利弗を連れて、帰国します)

(36b10)長者は佛の教を受け、惠心、轉た明みを増せり、(b11)優波低舍(= 舎利弗)を請い、賢友として同じて歸り、(b12)彼の憍薩羅に還り、周行して良墟を擇ばんとす。

 

(太子(Jeta)に祇陀林を乞います)

(b13太子(Jeta)が祇園(祇陀林, Jetavana)は、林流極めて清閑なりと(長者は)見、(b14)往きて太子の所に詣で、請い求めて其の田を買わんとせり。(b15)太子、甚だ寶のごとく惜み、元より賣心を出すことなく、(b16)設い黄金を布きて滿てらんとも、猶尚、地は遷らざらん

 

(b17)長者、心に歡喜して、即ち遍く黄金を布けり。

 

 

祇園精舎を金貨で埋めつくしている場面だそうです

 

(長者の寄進の気持ちを讃えます)

(b21)衆の皆、奇特を歎ずるに、祇も亦た其の誠を知り、(b22)廣く其の因縁を問い、辭して言わく、精舍を立てて、(b23)如來、并びに及び比丘僧に供養せよ。

 

(太子(Jeta)が賛同します)

(b24)太子、佛の名を聞けるに、其の心、即ち開け悟れり。(b25)唯だ其の半金のみを取り、和同して建立せんと求む。(b26)汝は地を、我は樹林を、共に以って佛を供養せん

 

(祇園精舎の威容とその建立の功徳)

(b29)高く顯われ勝れたる莊嚴は、猶お四天王の宮のごとく、(c01)法に隨い、道、宜しきに順い、如來の所應に稱えり。(c02)世間に未だ曾て有らざるが、増ます、舍衞城に暉き、(c03)如來、神蔭を現して、衆聖、安居に集まる。(c04)(天は)侍なくんば哀れんで降り、侍あらば、道の宜しきを資く。(c05)長者、斯の福に乘じて、壽盡くれば天に上昇し、(c06)子孫、其の業を繼いで、世を歴て福田に種えたり。