花まつりにちなんでのお話し
お釈迦さまのご生涯は、八つの大きなできごとをもって語られることがあります。それは、1)降兜率(ごうとそつ)、2)託胎(たくたい。受胎)、3)降誕(ごうたん。誕生)、4)出家(しゅっけ。29歳ころ)、5)降魔(ごうま)、6)成道(じようどう。35歳ころ)、7)転法輪(てんぽうりん。初転法輪)、8)般涅槃(はつねはん。入滅。80歳)の八つです。これを八相成道(はっそうじょうどう。八相示現)と呼ぶのは、6)成道(悟りをひらくこと)を中心としてのことなのでしょう。(八相それぞれの名称は、より分かりやすい表現を用いています。)このうち、お釈迦さまの誕生にあたるのが「降誕」であり、それは第三番目となっています。降誕の前に、2)母胎においていのちを結ぶこと・託胎があるは理解し易いとして、さらにその前には1)降兜率があります。「降兜率」とは、兜率天(欲界の第四天、下から四番目の意)という天界から、人界に降下することをいいます。お釈迦さまは、私たちが暮らすこの「娑婆世界」にお生まれになる前、いま弥勒菩薩さまが住んでいらっしゃる、待機中でいらっしゃる「兜率」浄土に住んでいた、というのです。
「兜率」天での寿命は4000歳であるといいます。ただし人界の400年を1昼夜とするというのですから、その寿命をまっとうすると、4000歳×12か月×30日、その400倍で、5億7600万年(それを「五十六億七千万歳」と言い習わします)の間、説法を行いながら、「娑婆世界」にお生まれになるのを待つというのです。
お釈迦さま(として誕生される直前の「補処の菩薩」シュヴェータケートゥ)は、いつ、どこで、どなたの子として誕生し、どのようにして、どのような状況のもと、さとりをひらくのが適切・有効であるのかを、観察されたといいます。それは時期、国土、地方、家系、母親(とその寿命)の五つを数え、お釈迦さまの場合、「どこで」にあたる「国土」は南閻浮提洲(なん・えんぶしゅう)であり、「地方」は[閻浮提洲の]中部地方(実際には、インド大陸北部)です。「だれの子」にあたる「母親」の名はマハーマーヤー妃であり、「家系」は父・スッドーダナを王とする王族の家系となります。そして「いつ」にあたる「時期」は「人間の寿命が百歳少々の時」である、というのです。「人間の寿命が百歳少々の時」は「五濁悪世」(ごじょく・あくせ)の時と解釈することができます。五つの濁りとは、劫濁、命濁、煩悩濁、衆生濁、見濁であり、紛争や争いごとが絶えず不安定な時代、長寿でも百歳ほどのいのち、くわえて、その日はいつくるのか定まっていない、そして貪瞋痴など、多くの煩悩が盛んな状態をいいます。お釈迦さまは、わざわざそんな悲惨な状況を選択されて、ご誕生になられたのです。もちろん「五濁悪世」は今の時代にこそ、最も当てはまるようです。
私の生まれた昭和35年は高度成長期で、5年生のときに大阪万国博覧会があり、右上がりの時代だったと振り返りますが、私の子が生きるこの時代は、経済的にも、地球環境的にも不安定で、閉塞感を感じ、身心とも心配ごと多き状況となっているようです。
お釈迦さまは、わざわざこんな悲惨な状況を選択されてお生まれになられたのでした。では、私たちはというと、どうでしょうか。いろんな考え方があると思いますが、私は、私たちも「好き好んで」このような時代に生まれてきたと受けとめたいのです。そして、父母となるお方も、やっぱり自ら望んで、私の両親となっていただいた。兄弟も、子も、学校の先生、先輩も、同僚も、友人もすべてそうです。会うべくしてお会いした、お会いしていただいているのです。(あら、お釈迦さまの場合と同じですね。でも何をするかが異なってしまうのです。)
お釈迦さまはいいます。
恨みを抱く人たちの中で、私は恨みを抱くことなく、
安楽に生きよう。
恨みを抱く人たちの中で、恨みを抱くことなく
暮らしていこう。 『ダンマパダ』197(佐々木閑 訳)
この句の「恨みを抱く」に、「争いを好む」、「(自分勝手な)欲望を追求する/行動をする」、「(いまある以上に、さらなる)幸せを求める」などを当てはめて読んでみることもできます。私たちは、幸せを求めすぎて、疲れてしまうことが多いのです。お釈迦さまは、心の平安という真実の幸せを求めて出家、修行し、さとりをひらき、それを実現する方法を私たちに説いてくださり、そして安らかに没し、その人生をもって、私たちに手本を示してくださっているのです。
片山一良『「ダンマパダ」をよむ』上、宗教の時間テキスト、NHK出版2007、81頁参照。
佐々木閑『ブッダ 100の言葉』宝島社2015、第74番目のことば
(追加情報)
お釈迦さまは、紀元前五世紀頃にインド大陸北部にあったカピラヴァスツ国の王子として誕生されました。「釈迦」というのは、お釈迦さまがお生まれになられた一族、シャーキャ族の漢語への音写に由来しています。そして、ご誕生の地はルンビニといいます。ルンビニはインド・ネパールの国境付近、ネパール領内にあります。カピラヴァスツ城については、現在ネパール領ティラウコット、もしくは現在インド領ピプラーワーであるとする二つの説があり、前者はルンビニから約24km、後者は約15km離れた場所にあります。なお、お釈迦さまの生みの母であるマーヤー夫人は、お釈迦さまをご誕生になってから、七日日の亡くなられたといいます。お釈迦さまの誕生の地ルンビニには、そのお母さまの顕彰碑も建立されている、とお聞きしています。
曹洞宗古城山荒村寺HP「お釈迦さん・ゆかりの地」
Yetauta Nepal「ブッダ生誕の地・ネパールの世界遺産“ルンビニ”への行き方と旅行記」を参照。
