【呼称の異同】(智顗)乖尊卑次序戒、(法蔵)衆坐乖儀戒、(義寂)尊卑次第戒、(太賢)坐無次第戒、(勝荘)次第戒、(明曠)衆坐乖法戒
【概要】各人の座順は受戒した順であることを弁えよ。秩序なく順不同に座を設えてはならぬ。
【本文】若佛子、応に法の如く次第に坐すべし。先に受戒せし者は前にありて坐し、後に受戒せる者は後にありて坐すべし。老少と、比丘・比丘尼と、貴人(キニン)・国王・王子、乃至、黄門・奴婢とを問はざれ。みな応に先に受戒の者は前にありて坐し、後に受戒の者は次第にして坐すべし。外道・癡人の如くなることなかれ。もしは老、もしは少、前なく後なく、坐して次第なきは、兵奴の法なり。わが佛法の中には、先の者は先に坐し、後の者は後に坐す。しかるに菩薩、次第に坐せずんば、軽垢罪を犯す。
【諺註】坐無次第(ザムシダイ)戒第三十八<坐するに次第なきことを戒しむるなり。>
一にいわく、王臣・奴主は、もし俗坐に就かば、その尊卑の如くすべし。もし法坐に就かば、悉く先に(戒を)受くるを上とす。女人も先に受けたらば、男よりも上とすべし。比丘は比丘戒の前後の次第に坐し、比丘尼は比丘尼戒の前後の次第に坐し、沙弥、沙弥尼、式又摩那、優婆塞、優婆夷等、各々それぞれの戒の前後の次第にまかせて、座に著くべし。これに準ずるに、今時の出家の五戒、八戒、摂律儀の菩薩も、また各々の本戒の前後に随うべきか。また在家の中に於いて、王臣、男女、奴主等、その異あるべし。王は王の中にて次第し、臣は臣の中にて次第し、主は主の中、奴は奴の中にて次第すべし。臣はたとひ前受戒なりとも、王より下に坐すべし。奴はたとひ前受戒なりとも、主人より下に坐すべし。男女はもし女人先受なりとも、男子より上に坐すべからず。ただし雑わり坐せざれ。もし同日同時に多人受戒せば、一日も早く生れたる人を上座とすべし。もし生日生時も同じくは、外相の老よりたるを上座とすべきか。もし次第を濫せば犯ず。[開縁]もし他(タ・かれ)は己(オノレ)より前受戒なり等と錯って坐するは犯なし。あるいは布薩の時、説戒の人として、上座に居し、あるいは説法の師として上座に居するは犯なし。[通局] 七衆通制
【現代的解釈例】 [38]席順に関する規定であるが、その意味をひろげて考えれば、年齢が上だから偉い、仏教をよく知っているから偉いのではなく、それぞれの立場で、それぞれの役割をはたすことが大切。仏教集団にあっては、互いに競いあうことは無意味であること、でも年上は年下の者にやさしく思いやり、年下は年上のお方を丁寧に敬うことがまず基本。