【呼称の異同】邪命自活戒、悪伎損生戒、(邪命害生戒)、不作邪命戒、邪命養身戒、不得邪命自活戒
【概要】利欲を貪るために身勝手に振る舞い、世俗の占いや毒の調合その他をしてはならぬ。
【本文】若佛子、悪心を以ての故に、利養の為の故に、男女の色(色:身体のこと)を販売(ボンマイ)し、自らの手にて食(ジキ)を作り、自ら磨り、自ら舂(ウスツ)き、男女を占相し、夢の吉凶、これ男・これ女を解し、呪術し、工巧し、鷹の方法を調へ、百種の毒薬、千種の毒薬蛇毒、生金銀蠱毒を和合せば、都(スベ)て慈心なし。もし故らに作さば、軽垢罪を犯ず。
【諺詮】邪命(ジャミョウ)養身(ヨウシン)戒第二十九<邪まなる命(スギワ)いして、身を養うことを戒しむるなり。> これに七戒有り。
一には販売(ヘンマイ)婬色(インシキ)戒。いわく、女色を売って男子に与えて婬せしめ、男色を売って女人に与えて婬せしめて活命するなり。今世に少年の男子を僧家、あるいは俗士に売って、婬楽せしむることあり。この類なり。道俗通じて制す。<これは教他婬の辺は、重禁に入るなり。>
二には自手作食戒。いわく、手自ずから食を作り、自ら磨舂などするを制す。これは出家にのみ制す。
三には占相吉凶戒。いわく、男女の婚嫁の吉凶を占い、また手の裏(ウチ)の文(モン/スジ)、身の中に黶子等を占い、また夢の善悪を占う等<また胎中の男女を占いことあり>の事を以て活命するを制す。これは、在家は妄語なく、物の害に成る事なくば開す。出家は活命のためにするをば制す。もし慈心にして、その返報を望む心なくば犯なし。
四には符書呪術戒。いわく、外道の符書、呪詛、呪龍等の邪呪術等、また幻術して人を誑かす等を以て活命するを制す。いまに真言師、さまざまの邪の呪術を習い、符守をして活命する人、甚だ多し。無慧・無学にして邪正を分かたず、不信・不解なれば、法・非法を知らず。末代といいながら、あさましき事なり。これは邪術にあらずして活命せば、在家には開す。出家には、活命をば一切これを制す。慈悲に住して、真言陀羅尼等を以て苦難を救って、返報を求むる心なくば、却って功徳あるべし。
五には種種工巧戒。いわく、諸々の細工<俗に諸職人というなり>匠作<俗に大工というなり>等をして活命するを制す。これまた人を誑惑する意なければ、在家には開す。出家には活命のためにするをば制す。如法清浄の意楽ならば犯なし。十誦律に仏自ら木作具を執って寺門を治したまうことあり。
六には調鷹方法戒。いわく、鷹の眼を縫い合せ、よく使いなして、畋猟に擬(ギ/アテガウ)するなり。これは道俗共に制す。
七には和合毒薬戒。いわく、種々の毒薬を和合して活命することを制す。経文に生金銀といっぱ、生毒<僧祇律に出でたり>・金毒・銀毒なり。これも道俗通じて制す。第六、第七の二戒、畋(カリ)して鳥を殺し、毒を与えて人を殺さば、重禁に入るべし。活命の辺にて軽戒に入るなり。
およそ、邪命に四種、五種あり。智論の第三にいわく、四種の邪命といっぱ、一には下口食。薬を合わせ、穀を種え、樹を裁て、活命するなり。二には仰口食。日月星宿、風雨雷電等を見て、吉凶を占って活命するなり。三には方口食。威勢に媚び諂い、四方に使いして活命するなり。四に維口食。種々呪術し吉凶を卜筮して活命するなり。またいわく、五種邪命といっぱ、利養のために、詐って奇特を顕す<これ一>、利養のために我徳をあらわす<これ二>、利養のために占相す<これ三>、利養のために高声に威をあらわして、人をして畏れ敬わしむる<これ四>、利養のために誰人は我に何を供養せりなどいって人の心を激発す<これ五>。この四種、五種をもって、一切を準知して出家者の尤も慎むべきことなり。
【現代的解釈例】僧としての檀務・法務以外で、収入を得ることを制すると解されますが、以前和尚さまで、市役所の職員であったり、学校の先生であった方もたくさんおられました。もちろん大学時代の先生は皆お寺の住職を務めておられました。世間さまから後ろ指を指されるような生業に手を出してはいけないということでしょうか。ときに祈願や祈祷などを行う場合は「慈悲に住して、返報を求むる心」をもたずに臨むことを忘れてならない。
船山徹『梵網経の教え 今こそ活かす梵網戒』臨川書店2023を参考図書に加えました。 合掌