四十八軽戒の概要(承前)

11敵軍と接触し自国に不利益を蒙らせてはならぬ。

【現代的解釈例】<檀務の際の注意>[11]国使戒 いわゆるスパイ活動の禁止。時に僧侶は、檀家さまの家庭のご事情をお聞きすることがあります。「秘密厳守」とは大げさですが、檀家さまの家族関係や兄弟姉妹間の和合に心をつくすこと。

 

12人民・奴隷・家畜を売ったり、死者を弔う具を取引したり、他者にさせたりしてはならぬ。

【現代的解釈例】<生命観>[12]販売戒 なんと人身売買の禁止、または人の死を想定しての、勘定に入れての業務の禁止であるようです。葬祭事業は公益業務であることを忘れなければ許されるかしら。また犬さんや猫さん、小鳥さん、お魚さんなどを家に迎え入れたときは、いのちの尊さを教えてもらうとの姿勢で責任をもって愛情をもって飼育すること。お互い掛けがえのないいのちを全うしましょう。

 

13無実の罪を他者になすりつけて誹謗中傷してはならぬ。

【現代的解釈例】<対人関係>[13]謗毀戒 その通り。邪な事実無根の諫言・誹謗中傷を制する。

 

14家屋・山林・田畑などに火を放って焼失させてはならぬ。

【現代的解釈例】<作務活動上の注意>[14]放火焼戒 放火罪。意味を広くとって、焼き畑や野焼きを用いての農耕活動を制するということか。もぐらさんやミミズさん、地中の生き物、微生物の殺生になってしまいかねないから。

 

15大乗以外や異教徒の教えを恣意的に解釈して他者に誤った教えを与えてはならぬ。

【現代的解釈例】<指導上の注意>[15]僻教戒 誤謬ある教え(たとえば、自我意識や、常見・断見などの仏教以外の見解)、劣った教え(たとえば、本体的な我はなくても、ものの実在性を想定した声聞乗の教説など)をもって、人々を導くことを制する。まずは自ら縁起空性の教えをよく学び、教えを正しく理解すること。

 

16大乗を正しく教えるべきなのに、他者の問いに答えず、誤った説明をしたりしてはならぬ。

【現代的解釈例】<指導上の注意>[16]為利倒説戒 大乗の教えを語っていても、意味を取り違えて説くことを制する。手厳しい。仏さま、覚者の教えはいのちに代えても、正しく理解し、受持すべきである。

 

17利欲を貪ろうとして国王や官僚の権利を笠に着るような行いをしてはならぬ。

【現代的解釈例】<檀務、あるいは通常のお付き合い>[17]恃勢乞求戒 権威ある人を近づき、その方の威をかりて、自らの利益を求めることを制する。『法華経』「安楽行品」などが参考となるかしら。

 

18菩薩戒を正しく暗誦し、理解せよ。戒の教えを知っていると偽り、他人を欺いてはならぬ。

【現代的解釈例】<檀務、あるいは通常のお付き合い>[18]無解作師戒 仏法をよく理解せぬまま、教えを説くことを制する。ご法事などでお話しするときは、よくよく注意して、日頃の学習を欠かさないこと。特に戒律についてはそのようである。自分を偉くみせてはならない。

 

19正しく菩薩行を行う他者に悪を行ったり偽りを言ったりしてはならぬ。

【現代的解釈例】<対人関係、寺院運営>[19]両舌戒 意図的に仲違いさせるようなことばや、うそ偽りを語って、他者、仲間を困らせることを制する。

 

20捉えられた生きものを自由に放ち(放生 ほうじょう)、危険から救い出し、亡き肉親の追福をも行え。

【現代的解釈例】<生命観>[20]不行放救戒 かつては放生会という行事が盛んに行われた。「六道衆生はみなこれ我が父母であ」る。そして、父母両親、兄弟姉妹など親族のご命日の日には、経を読み、その意味を学び、その福徳を以て故人に資すこと、廻向することを勧める。

 

21たとい肉親の身に危害が加えられたとしても、報復してはならぬ。

【現代的解釈例】<対人関係、寺院運営>[21]瞋打報仇戒 何があっても、何を言われても、決して仕返し、報復行動に出てはならない、とする。私たちは、日々知らず知らず、身語意による罪を無量に犯しているのであるから、よくよく気を付けること。

 

22他者の優れた才能や立派な行いを理解せぬまま軽んずるようなことをしてはならぬ。

【現代的解釈例】<対人関係、仏教の学習について>[22]憍慢不請法戒 僧になる前の自身の社会的地位、学歴、または年齢などを理由に、先学や師を軽んじ、仏法の学習に精を出さないことを制する。

 

23悪意や慢心から菩薩戒を他者に授けず、教えない態度を取ってはならぬ。

【現代的解釈例】<指導の際に、あるいは檀家さまとのお付き合い>[23]憍慢僻説戒 檀家さま、または僧侶仲間から、仏法に関する質問を受けたときには、誠意をもって対応、お答えしなければならない。

 

24大乗以外の仏教や異教徒の教えを学んで大乗に対する妨げを作ってはならぬ。

【現代的解釈例】<仏教の勉学について>[24]不習学仏戒 縁あって僧侶になったのに、七宝にもたとえられる大乗の法を捨て、他の趣味に走ることを制する。「仏性を断じ、仏道を妨げる因縁」となる、という。

 

25教団の管理運営に当たる時は、教団の財を私用したり、他を混乱させたりしてはならぬ。

【現代的解釈例】<寺院管理について>[25]不善和衆戒 寺院管理において上位にある者が、寺を私物化することを制する。そして僧侶の和を心掛け、寺院経営を円滑に行う義務がある。

 

26来訪した客僧を敬い、能う限り施せ。客僧を蔑ろにして身勝手に利益を貪ってはならぬ。

【現代的解釈例】<寺院管理について>[26]独受利養戒 新たに加わった僧侶に対して、以前より所属していた僧侶は、決して差別的な扱いをしてはならない。

 

27檀越からの布施は教団の皆で分かち合え。自分一人で身勝手に利益を受けてはならぬ。

【現代的解釈例】<寺院管理について>[27]受別請戒 法事に出向き預ったお布施は、寺院運営のために適切に管理、分配すること。

 

28檀越から食事接待を受ける際は、誰かを特別待遇せず、教団の順位通りに皆が利に預かれ。

【現代的解釈例】<寺院管理について>[28]別請僧戒 檀家さまから法要を依頼されたとき、直接、依頼を受けるのではなく、まずは事務所を通していただけるようにお願いする。また希望の僧侶が出向くことができなくとも、檀家さまが安心していただけるよう、お互い切磋琢磨すること。

29利欲を貪るために身勝手に振る舞い、世俗の占いや毒の調合その他をしてはならぬ。

【現代的解釈例】<寺院管理について>[29]邪命自活戒 檀務以外で収入を得ることを制すると解されますが、以前菩提寺の和尚さまで、市役所の職員であったり、学校の先生であった方もたくさんおられました。もちろん大学時代の先生は皆お寺の住職を務めておられました。世間さまから後ろ指を指されるような生業に手を出してはいけないということでしょうか。

 

30仏・法・僧の三宝や仏の教説に対して偽りを言ったり、行動したりしてはならぬ。

【現代的解釈例】<寺院管理について>[30]不敬好時戒 六斎日三長斎月、またはお盆やお彼岸など、寺院における年中行事の期間や、両親のご命日、お師匠さまのご遷化にあたる日などは、十分に身を慎むこと。 合掌(続く)