～ 時間 ～
「会えるかな？」
グンソクさんから そんな短いメールが届いたのは
仲間数人でのトレーニングを終えた直後だった
「今から？大丈夫だよ。どこに行けばいい？」
しけた海で船を助ける念力はないけど
直感はわりと当たるほうで
圏外に島流しのはずのグンソクさんが 日本にいることはすぐにわかった
「おまえ、今どこ」
「代々木公園だけど」
「いのがしらどおろ、わかる？」
「うん」
「じゃ、そこにいて。すぐ行く」
迎えに来てくれたグンソクさんは
私が車に乗り込むなり 顔をしかめて
「何？そのでかいバック。汗くっせー」
なんて言うもんだから ちょっとムキになって
「今日は一日トレーニングしてたんだからしょうがないじゃん」って言い返した
ふうんって笑ったっきり 何も言わずに車を走らせてたけど
なんか いつもと違う
車に流れる音楽を聴きながら 窓の景色を眺めていたら
なんか見覚えがある公園の駐車場に すう～っと止まった
ん？
葛西臨海公園？
わぁ 冬に夜の海に来るなんて何かあったとしか思えない
車を降りて 黙って後ろをついていく私を
振り返ったグンソクさんは プッと吹き出して
「なんでそんなでかいバック持ってくんの？車において来ればいいのに」
だってさ
このバックには大事な道具がたくさん入ってるし
こんなクッサイバック 載せたままに出来ないでショ
「何のトレーニングしてたの？」
近くのベンチに座りながらグンソクさんが尋ねてくる
「ローコンバット」
「？」
「Low じゃなくて Law のほうね」
「Law Combat？おまえ戦争にでも行くの？」
「あはは！行かないけど実戦でも使える。女の子には護身術みたいなもんかな」
「へぇ～ ちょっとやって見せてよ」
「じゃあ、私の手首を強くつかんでみて」
「こう？」
「そう。逃げられないように、強くね」
そう言いながら空いているほうの手でグンソクさんの手首をつかみ
体を反転させてグンソクさんの手を外すと
同時にグンソクさんは手首をひねられて身動きが取れなくなった
「えっ？あれっ？」
一瞬の出来事に 目を丸くしてる (笑)(笑)
それから
バッグの中からミットを取り出して グンソクさんの両手にはめる
「胸の前で’ハ’の字に持ってて」
あ～ グンソクさんもやったことあるかな？
ちゃんとスタンス取って身構えてる
軽く何回かジャブを打ったあと
パンっ
いい音を響かせてミットにパンチを沈めた
返されたミットを両手にはめて
黙ってグンソクさんに向き直る
初めは触れるだけだったグンソクさんの拳が
次第に力強くなってきて
それと同時に
目にも力が戻ってきた
格闘技は
体を鍛えるだけじゃない
殴るって 本能のようなもの。 ストレス発散に最高だよ
言葉にしなくても 伝わってるのがわかる
ギュッと固くむすばれてた唇が
ぽてっと厚みを増して ふんわりしてる
何か話したいことがあったのかな
涙は見せないけど 背中が泣いてたよ
何があったか知らないけど もう大丈夫だね
きっと ’時間 ’が解決してくれる
「帰ろっか」って言ったら
返事の代わりに ニコッと笑った
※登場する人物・名称は実在するものとは関係ありません
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