最後の課題は時代劇。苦労したけど、なんとか形にはなったかと。言葉使いは難しくて、ぶれてます……。
内容は結構評判よくて、今までで一番さわやかなシナリオだというご評価いただきました!ぐちゃぐちゃに人殺したり、精子飛ばしたり、そんなシナリオばかりだったので、納得。
それで、内容的には、柱(お話の舞台となる場所)が一本しかない、演劇のようなスタイルです。でも、飽きさせないよう、いろいろ工夫しました。映像シナリオのスタンダードからはかなり外れてますが、毎度のことで、そこが自分の持ち味かと思います。
時代劇の定番は勧善懲悪の痛快なお話だけど、自分、そんなこと書いてもたいして上手に書く自信もないし、他に上手な方がたくさんおられるので、そちらの方向は、上手な方にお任せして、自分は書きたいものを自由に書く。
それで、何が書きたいか、をよく考えてみた。うーん……。雰囲気、空気感、それが一番大事。それを掴めばある程度は書ける。書く自信がある。なので、そのことを念頭に、はじめの数ページ以外は流れで書きました。毎回そんな感じ。細かい構成は考えない!出だしの雰囲気を掴むことに全神経を費やす!
書き始めるコツをだいたい掴んだので、シナリオはもう卒業!今のところ、今後書く予定はないです。これからは小説との格闘がスタート!
一区切りつき、すっきりした気持ちでチャレンジできる。35歳の誕生日前に終えられてよかった!ボランティアにも気持ちよく行ける!嬉しい!
長々と書きました……。本編どうぞ!
課題:時代劇
タイトル:花より団子
人物
山口権兵衛(33)浪人
山口二郎兵衛(31)浪人
山口花(13)権兵衛の娘
○山奥の里・田んぼ
のどかな山奥の山村。周りを山々に囲まれ、平地には一面、田んぼが水を湛え日に輝いている。田にはまだ淡い緑色をした稲の苗が太陽に向かってその葉を元気に広げている。山口権兵衛(33)が畦に座ってキセルを燻らせている。
山口二郎兵衛(31)があわてた様子で全速力で走ってくる。
二郎兵衛「あ、兄上!大変だ!いよいよ徳川が大坂を攻めるらしいぞ!」
権兵衛「ほう、そうかい」
二郎兵衛「そうかい、じゃなかろうて!戦じゃぞ、戦!関ヶ原以来の大戦じゃ!」
権兵衛「そうかい」
二郎兵衛「だから、そうかい、じゃなかろうて!兄上、戦と聞いて血が騒がんのか!」
権兵衛「騒がんのう」
権兵衛、たばこを燻らせ、大きく煙を吐き出す。
二郎兵衛「どうしてじゃ、兄上!あんなに戦を待ちわびてたじゃねえべか!わしら、いつか関ヶ原の借りを返そうと誓ったじゃねえべか!指切りしたじゃろが!」
権兵衛「ふん!忘れたわ、そんな遠い昔のこと。何年前じゃ。もう十五年も前のことじゃ。わしゃ、もうどうでもいいわ。百姓暮らしで充分じゃ」
二郎兵衛「何言うとる!いつまでも田なんぞ耕してるばあいじゃなかろう、兄上!わしらは落ちぶれても武士じゃぞ!このままこうして鍬をかかえて死んでよかろうはずがないべ!たとえ死ぬなら、わしらの死ぬる場所は戦場以外にありはせん!」
権兵衛「わしら、と言うな!わしゃ、まだ死なんぞ!お花が嫁に行くまで、わしゃ死なんと決めたのじゃ!」
二郎兵衛「何言うとる、兄上!お花ももう十三じゃ、武家の娘として、きっと、いつ父が死のうと覚悟は出来とるわ!」
権兵衛「何が武家じゃ!見てみい!上から下まで骨の髄まで百姓そのものじゃ!」
権兵衛、大げさに二郎兵衛の方を見る。
二郎兵衛「そりゃ、戦がなけりゃ、食うために田でも畑でも耕さにゃならん。そう見えて当然じゃ。でもわしらの心の奥には武士としての魂が染み付いとるんじゃ。だから、ひとたび戦が起こりゃあ、鍬を捨て、戦場に駆けつけにゃあならんのじゃ!」
権兵衛「ばかこけ!そんな決まりありゃあせん!行きたくなけりゃ行かんでいいんじゃ。わしらは浪人ぞ!」
二郎兵衛「うぐぐ……」
二郎兵衛、悔しそうに唇を噛む。
権兵衛「考えてみい。どう見ても、もはや天下は徳川のものぞ。いくら豊臣でも徳川に敵いわせぬ。味方がおらねばの……」
二郎兵衛「うぐぐぐぐ……」
二郎兵衛、すごく悔しそうにじたんだを踏む。
権兵衛「二郎兵衛、武士なら戦況をちったあ見んかい!」
うなだれてしゅんとする二郎兵衛。
権兵衛「無駄に命を捨てることなかれ」
山の方からカラスの「あほー、あほー」という鳴き声が聞こえる。
権兵衛「ははは、それみい、わしらカラスにばかにされとるわ」
二郎兵衛、さらにしゅんとして小さくなる。権兵衛、包みを開き、にぎりめしを取り出し二郎兵衛に勧める。二郎兵衛、受け取って権兵衛の隣に座る。ふたり、無言でにぎりめしをほおばる。
権兵衛「なあ、いい天気だなあ。空がきれいだぞ。おらあこんなに青い空見るの初めてじゃ。二郎兵衛、ここで暮らすのも悪くねえじゃあねえか。今更武士に戻ってどうする。ここ十年、ろくに稽古してねえべ、わしら。すっかり百姓の生活が染み付いとるべ。きっとわしらが行ったところで無様に切られて死ぬるだけじゃ。武士らしく死ぬることもできぬのやもしれん。ならここで、妻と子供と一緒に田を耕すことも悪くねえじゃあねえか!」
無言で膝を抱えて、落ち込んだ表情で田んぼの水面を見つめる二郎兵衛。
二郎兵衛「でもよう……、でもよう……。父上に、死んだ父上に申し訳がたたねえべ……。命がけでわしらを逃がしてくれた父上に何て言えばいいんじゃ……」
権兵衛「何を言う。父上はわしらに、無事でいろよ、と言っとったじゃなかろうて。何も言いわせぬ、父上も」
二郎兵衛「そうかのう……」
権兵衛「そうじゃ、きっとそうじゃ……」
権兵衛も少し落ち込んだ表情になる。しばらく黙って座り続けるふたり。
権兵衛「二郎兵衛、久方ぶりに稽古するか!」
二郎兵衛「でも、戦には行かんと……」
権兵衛「アホたれ!戦に行かなくとも稽古してよかろうて!なにごともはなから決めて掛かるでない、と、いつも言っとろうが!」
権兵衛、山の方に歩いて行き、適当な長さの棒切れをふたつ拾ってきて、二郎兵衛の前に差し出す。
権兵衛「好きな方を選べ」
二郎兵衛、一本を選び、構える。
権兵衛「思い切り掛かってこい!手加減はせぬぞ!」
二郎兵衛、真剣な目つきになる。
二郎兵衛「望むところ!」
権兵衛と二郎兵衛、お互い棒切れを構え、間合いを取る。呼吸を整えじりじりと間合いを詰めるふたり。二郎兵衛、しびれを切らせて、権兵衛に襲い掛かる。
二郎兵衛「いやーー!!」
権兵衛、襲いかかる二郎兵衛の太刀を素早く弾いていなす。二郎兵衛、向き直り、諦めず再び権兵衛に向かって行くが再びいなされる、それでも諦めずに向かっていく二郎兵衛。権兵衛、二郎兵衛の気迫に押され、二郎兵衛の太刀を受け止める。絡み合う棒切れを挟んで、二人の視線が交差する。お互い、気迫のこもった目つきで睨み合う。と、権兵衛の表情が歪む。
権兵衛「卑怯な……」
二郎兵衛の足が、権兵衛の足を踏みつけている。
二郎兵衛「兄上、甘いぜ!戦場で卑怯も糞もあるものか!」
二郎兵衛、そのまま権兵衛を押して行き、田んぼに突き落とす。権兵衛、尻餅を突いて下半身が泥まみれになる。
二郎兵衛「ははは!兄上、わしの勝ちじゃ!」
権兵衛「いててて……」
二郎兵衛、少し心配そうな顔になる。
二郎兵衛「兄上、大丈夫か……?」
二郎兵衛、権兵衛に手を差し出す。権兵衛、その手を掴むと、思い切り引っ張り、二郎兵衛を田んぼに落とす。二郎兵衛は顔から田んぼに落ち、全身泥まみれになる。権兵衛、すかさず起き上がり、棒で二郎兵衛の頭を叩く。
権兵衛「はははは!油断したな!戦場ではなんでもありと、お前が言ったのだぞ!わしの勝ちじゃ!」
二郎兵衛「何を!まだまだ!」
二郎兵衛、棒を捨て、権兵衛の顔に泥を塗る。
権兵衛「あ!この!やりおったな!」
権兵衛も負けじと、二郎兵衛の顔に泥を塗る。ふたり、子供の様に取っ組み合う。
花の声「父上!叔父上!何をしているのですか!」
花の声を聞き、権兵衛と二郎兵衛、その場で固まって、恐る恐る振り返る。ふたりの視線の先には頬を膨らませて恐い目つきで権兵衛と二郎兵衛を睨みつけている山口花(13)が腕組みをして立っている。
権兵衛「お、お花……」
お花と目が合い、気まずそうな権兵衛。
権兵衛「な、何って、見りゃあ、分かろうに……。久方ぶりに剣の稽古じゃ……。わしらもこれでも武士の端くれだからな……」
益々、気まずそうな、権兵衛。権兵衛の困った様子を見て苦笑いの二郎兵衛。
花「これの、どこが剣の稽古ですか!花には泥遊びにしか見えませぬ!」
しゅんとするふたり。
花「まったく……。一生懸命に仕事をしているかと思って、母上と団子を作って持って参ったのに。この様子じゃ、団子は要りませぬな!帰って母上とふたりで食べます!母上には、泥遊びで忙しくて団子どころじゃなさそうでしたとご報告致しておきます!じゃあ!」
花、怒って元来た道を引き返す。権兵衛と二郎兵衛、慌てて起き上がり、花のもとに駆け寄る。
権兵衛「は、花!は、母上には内緒にしておいてくれ!な!な!頼む!」
権兵衛、手を合わせて、懇願する。
花「父上!泥が着物に付きます!」
尚も懇願する、権兵衛。
花「わかりました。母上には内緒にします。ただし、条件があります」
権兵衛「条件?何じゃ?」
花「新しい髪飾り買ってくだされ」
権兵衛「髪飾り?」
花「この前、町のお店で父上と一緒に見た赤い飾りの付いた髪飾りが欲しいのです」
権兵衛「あ、あれか……。あれはちと値が張るのう……」
花「じゃあ、今日のことは母上に申し上げます……!」
権兵衛「わ、わかった!今度買ってやるから、母上には言わんでくれ!」
花、笑顔になる。
花「父上、約束ですよ!」
花、小指を出して指切りのポーズ。権兵衛が渋々小指を胸の前に出すと泥の付いた権兵衛の小指にちょんと触れる。
二郎兵衛「ははは!兄上、お花には敵わぬなあ!さあ、団子食べよう、お花!」
三人、畦道の草の上に座って笑顔で団子を食べる。
(おわり!)