少額短期保険を立ち上げる頃の話です。
保険会社を作るのに、調査会社、再保険会社、システム等といったサービスを提供している先を探すことに奔走していました。
少額短期保険という新しい保険制度を立ち上げるにあたり、古くからある日本の会社は、会社の定款に少額短期保険業との記載もなく、また他社での取引もないことから断られたものです。
私が知りえる訪問先は直ぐになくなり、万策が付きかけたときに、元オランダ系の保険会社の方のお力添えを得て、外資の保険会社と取引ができることになりました。
当社には、日本人とベルギー人の2名の営業マンが担当になりました。
その方々に、これから設立する少額短期保険会社について相談し、前に進み始めて私は安堵したものです。
それから暫くして、その担当者から「上司が私に会いたいと言っているので、来社してほしい。」との連絡が入りました。
私は、喜んで、その会社に伺いました。
会議室にとおされ、5分ほど待つと当社の担当2名と、オーストラリア人の上司、そして通訳が部屋に入ってきました。
穏やかなムードではなくピリピリしています。
そして、オーストラリア人の上司が険しい顔で話し始めます。
話しの内容は「当社とは取引をしてもメリットを見いだせない。当社とは取引契約を締結しない。」という話でした。
『なるほど、そういうことね。』
『自分たちでは説明ができなかったので、私をつれてきたのか。』
このようなシチュエーションは珍しくありません。
そこで、私は、そのオーストラリア人に、日本語で、「当社に御社のサービスを提供してくれたら必ず御社の売り上げに必ず貢献してみせます。当社には掛ける価値があると思います。御社にはリスクは然程ないとおもいます。力を貸してください」と率直に伝えました。
すると、そのオーストラリア人は返す刀で「あなたは責任をとれるのか。」と一言。
「もちろん。」と私。
オーストラリア人は顎に手を添え5秒程度沈黙し、そして「OK」と言って、通訳の方と一緒に部屋を去りました。
彼らが立ち去り、2名の担当者が、私のところに駆け寄ってきて一言。
「本当によかったですね!」と。言われました。
『オイ、オイ、オイ、オイ。良かったじゃないでしょ。』
私の心の声。
私が会議室に通されてからわずか10分程度の短い時間での話しです。
今思い出しても、私の人生の中で最も重い10分でした。
このオーストラリア人の決断の速さ、決断の速さの裏に感じさせられた責任への重みは未だに忘れられません。
このケースは、その後の外国人との取引における私の一つの尺度になりました。
その会社は未だも日本に存在し、当社との縁も続いています。