華紡ぎ -恋絵巻- -2ページ目

華紡ぎ -恋絵巻-

恋の迷い道も二人ならば怖くはないだろう?

 

急に暖かくなり、一気に咲き出した白木蓮。

 

 

白木蓮の別名は玉蘭と言う。

 

産毛を纏ったような蕾からは想像もつかない

大ぶりで純白な花が、このように一斉に咲き出すと

それまで強張っていた身も心も解れて、

癒されるような気がする。

 

木蓮は地球上で最古の花木と呼ばれている程、

遙か昔から存在していたのだそうだよ。

 

 

木蓮と言えば私が思いつくのは

良岑木蓮(よしみねのいたび)……かな。

 

 

平安初期に存在した人物で、

彼の父親である安世は桓武天皇の皇子だったが、

臣籍降下をして良岑性を賜り貴族となった。

だから木蓮の血筋は皇族だったというわけだ。

 

「いたび」は崖石榴(いたびかずら)の古名で

木蓮子と書いていたびと読む。

良岑木蓮という男は身のこなしが優雅で、

声望が高かったという話だから、

木蓮で「いたび」と読む方が合っている気がするね。

 

 

三十六歌仙でも有名な僧正遍昭は、

木蓮の数いる弟の一人だ。

 

百夜通いで有名な深草少将は実は架空の人物で、

大納言義宣か、この僧正遍昭ではないかという説が

あるのだが、この手の話はいつの時代でも

何故かよくあることだと思わないかね?

 

 

出家前の最終官位は左近衛府少将 従五位上で

小野小町も三十六歌仙の一人だから

同じ時代を生きた者と考えられる。

 

 

だが帝が遍昭七十歳の賀を開いていて、

その五年後に亡くなったというのだから、

僧正遍昭が深草少将だったという説は、

私は無いと思っている。

実際に恋仲だったことはあったかもしれないがね。

 

 

他人の過去の恋話をしてもつまらなかったかな?

 

 

では、君の話を聞かせてもらえまいか。

 

春の木漏れ日が降り注ぐ日に、

膝の上にまろび寝しながら、

姫君の柔らかな声で恋の話を聞いてみたいね。