Poetry Of Soldiers

Poetry Of Soldiers

歴史に残らない英雄たちの言葉

Amebaでブログを始めよう!

 

 魔法というのは火・水・風・土と大きく分けて四つのエレメントからなる。例外的なものとして稲妻や大量の雨を起こす魔法もある。

 そのほかにシンプルなところで鍵を開けたり、壁を透かして何がその先にあるのかを感知するものなどや、自らを宙に浮かせる術。転移の術はこれらに近い。自然のエレメントの力を借りるのではなく、もっと術者の持つ精神力と魔力を合わせて起こす、自らの潜在能力を高めて行う魔法とも言える。

 

 彼女はこの種の魔法が得意だった。あっさり(本人にとってはそうではないのかもしれないが)と転移の術を習得し実行したのだ。才能とはこのことだろう。

 

 自分にはできない。土の属性の魔法は得意だったが、基本的に物を動かす、といった方面は苦手で、土塊をゴーレムにするとか土の力を用いて攻撃をするというものなら使うことができる。

 

 得手不得手の問題とも言えるが、自分にはない能力を持っていることは素直に羨ましかった。

 

 

 

 

 こっそりと準備をした。食糧や防寒着にそして甲冑と武器。

 もともと重装備での戦闘は行わない方なので、物々しい外見にはならない。早朝、まだ夜明け前に出発するつもりだ。もし周辺の住人に尋ねられたら「訓練だ」と言おう。どこまで信じてもらえるかは疑問だが。

 

 この集落では自分は主に狩猟や釣りを手伝って暮らしてきた。ぼろぼろの装備で川から上がってきたところで十分怪しかったとは思うが、よく受け入れてくれたと思う。彼らは優しいのだ。あまり人を疑うということもしない。しかしそこが心配の種でもある。この集落は山を越えないと大きな街に出られないのだ。地理的なことがわかりはじめ、住人に連れられ、何度か山を越えて街のバザールに行ったこともある。実はこれも収入源の一つで、街までの道程で怪物やら野盗に遭遇する可能性もあるので、腕に覚えのある者たちが買い付けに行き、それを集落で売るという仕事もある。

 

 集落の住人が穏やかなのは、この民族の性質もあるかもしれないが、閉鎖的とも言える空間で決まった者たちとだけ暮らしていることも大きいだろう。いわゆる「悪党」がいないのだ。

 

 それはいいことだが、もし野盗たちが山を越えてここまで来てしまったら、拓けた街の者たちがこの土地や人々を金儲けの対象と見たらどうなってしまうのか。ここ最近はそんな不安がある。それを口には出さないのは余計な心配はかけたくなかったことと、いずれ出発しなければならなかったから。この地に腰を据えることのできない状態でそれを言うのは無責任だ。

 

 だから、帰ってきたら、自警団を編成することを提案しよう。まずは自分の使命だ。それを完遂しなければみんな生き残ることさえできないのだから。

 

 

 

 

 

 きっとわたしは何もできない人かもしれないけれど、懸命に生きてきた。

 仲間にも生きていて欲しい。

 もし、もう会えなかったとしても、幸せに満足のいく納得のいく人生を歩んでいてくれたらと思ってやまない。

 

 恋とかではなく、ただ素直に仲間たちが大切で心配で、彼らの無事や幸せを願って切なくて。

 

 どうか生きていてと思って。

 

 胸が締め付けられながらもわたしも頑張って生きている。不安を自分の責任と受けとめてそれでも生きている。

 

 あなたたちが無事でいるとわかったら、命が尽きてもいいと思うほどに。