やっと観ることが出来た。
『奇跡に愛された男~Sugar man』
昨年、サンダンス映画祭初め、ロスアンジェルス映画祭等の7つの映画祭で賞を総なめにした。
そしてついに2012年・第85回アカデミー賞を受賞した実話、珠玉のドキュメンタリー映画である。
以前、映画会社に勤めていた時は、ジャンル、国に関わらずいろんな映画を観ていた。
もちろん今回のような単館アート系の作品もよく観ていたのだが、最近は時間がなく、メジャー系作品くらいしか、あまり観る機会が無かった。
こんな感動したアート系作品に出合ったのは、本当に久し振りである。
1960年代、米国デトロイトの場末のバーで、一人の男がギターを弾いて唄っていた。
彼の名は、「シクスト・ロドリゲス」
やがて彼の才能を見出したプロデューサー:マイク・セオドアらに見出され、レコードデビューを果たす。
しかし、リリースした2枚のレコードは商業的に大失敗し、全く売れず、レコード会社を解雇される。
そして、ロドリゲスは音楽シーンから完全に姿を消し、その名前を知る者もいなかった。
それからロドリゲスは家族を養うため、日雇い労働者に戻り、毎日、建設現場で働いていた。
普通であれば、物語はそこでおしまい。
夢破れ、普通の生活に戻るミュージシャンは世界にゴマンといるだろう。
ところが、結婚して南アフリカに移り住んだある米国人女性が持ち込んだ1枚のレコードが奇跡を呼ぶ。
その当時の南アフリカはアパルトヘイト政策(人種差別)のまっただ中で弾圧、思想統制が布かれていた。
そして抑圧された国民に、体制や社会を批判する自由と夢を与えたこのレコードが、じわじわと売れ、大ヒットする。
その当時の南アフリカで2つの家庭に1枚はこのロドリゲスの1stアルバム「コールド・ファクト」があったというから驚きである。
そして海外の情報規制が厳しい南アフリカでは、米国で無名のロドリゲスはビートルズやストーンズ、プレスリーに匹敵する超スーパースターだと信じられていた。
そしてその謎のスーパースターの消息を知ろうと、南アフリカのジャーナリストが調査を開始した。
ところが全く分からない。
当然である。米国では誰も知らない、本当に無名の労働者に過ぎないのだから・・・・。
そして半年ほど探したが全くこの謎のスーパスター(と信じている)の情報が分からない。
そしてもうあきらめかけた時に、また奇跡が起こり、衝撃の事実に直面する・・・。
そのサイトを見たロドリゲスの娘さんが、連絡してきて、事情を説明するが信じてもらえない。
日雇い労働をしている父親が、本人も全く知らない地球の裏側で、国民的なスーパースターになっていたなどと誰が信じられるだろう。
半信半疑で行った南アフリカでコンサートをやったロドリゲスの目の前で広げられた光景は、2万人を超す熱狂的なファンが立ちあがり、一緒に全曲を熱唱する感動のシーンだった。
正直、このコンサートのライブフィルムの映像は、魂を揺さぶられた。
そして6回の南アフリカツアーを終えたロドリゲスは、故郷デトロイトへ戻りまた元の生活を続けている。
もし、このまま南アフリカに居ればビートルズやストーンズに並ぶ超スーパースターとして、金も名声も思いのままに手に入れられただろう。
米国でもこの奇跡のストーリーを武器に売れだせば、リバイバル大ヒットも間違いないだろう。
しかしロドリゲスは、今も質素でつつましく、日雇い労働者として生活している。
今回の第85回アカデミー賞の授賞式も欠席し、何の関心も無いらしい。
この夢のような奇跡の物語にも感動したが、このロドリゲスの男の生き様、ロッカーとしての揺るぎない魂に心底、感動した。
最後に、ロドリゲスの言葉で締め括りたい。
「君の時間をありがとう。
君も俺の時間にありがとうと言う。
そしたら、もう忘れてくれ」 ~ロドリゲス~
