林真理子さんの小説「アッコちゃんの時代」に、バブル期を語って印象的な言葉がある。「日本中どこもかしこも照り輝いている。晴天は永遠に続くかと思われた」――。1980年代後半、株価も地価も上がりに上がり、やがて嵐が来るとは誰も想像しなかったのだ。

▼89年の大納会に史上最高値をつけた日経平均は、新年の4万円突破が確実視された。90年1月3日付の本紙アンケートでは企業経営者20人の全員がそう予想し、4万8千円超えの指摘も見える。そんな楽観が総崩れになったのはご案内の通り。以後34年もの間、見果てぬ夢の「4万円」に思いを重ねてきたニッポンである。

▼きのう、ようやく夢が現実になった。とはいえ、高揚感はどれほどの人にあろう。世界はとっくに先を行き、NYダウは往時の約15倍である。われらがマネーはマンハッタンをまるごと買える、などという浮かれ気分は影もない。30年あまりをかけて、やっとつかんだ「4万円」の値打ちはあのころとはまったく違うのだ。

▼「アッコちゃんの時代」に出てくるカップルは、桁外れにバブリーだ。パリからローマへプライベートジェットで移動し、高級ホテルのスイートルームに泊まり、ブランド品を好きなだけ買う……。そういう狂乱を経て、この国はすっかり大人になったと言いたいのだが、希望というものはどこへ置き忘れてきたのだろう。