「全日本の世論が冷静に、世界の日本という広い視野から、賢明に判断し行動せんことを期待する」。日本音声学会の理事長だった大西雅雄は71年前、本紙の論壇でこう訴えた。当時はローマ字のつづり方をめぐって、「訓令派」と「ヘボン」が大論争を繰り広げていた

 

▼対立の歴史は明治までさかのぼる。幕末に来日した米国人が考案したヘボン式は、日本語の音を英語風につづったものだ。一方で日露戦争のころから、日本人には規則的に五十音を示す方式が好ましいとの声が高まった。これが訓令式となる

 

▼敗戦後にGHQがヘボン式にするよう求めたことで、両派の対立はイデオロギー色が強まった。

 

ヘボン式は国際主義ではなく、占領政策の継承だ」

訓令式こそ、間違った愛国主義だ」

 

といった主張だ

 

▼つづり方の統一を目指した政府は1954年の内閣告示で、原則として訓令式を用いると決めた。小学生が国語で学ぶのも、訓令式

 

 

▼その告示が改定されるようだ。先日公表された文化審議会の報告案では、訓令式よりヘボン式が広く使われていると指摘され、表記を実態に合わせる見通しだという。約70年も変わっていないことが驚きだが、混乱が避けられるなら歓迎したい

 

 

▼デジタル時代のローマ字は、スマホやパソコンの入力にも使われる。訓令式の「zya」はヘボン式の「ja」より長いが、反対に「tu」なら「tsu」より短い。早く、わかりやすく。今度は「冷静で賢明」な結論が出せるだろうか。