派閥とは「お仲間でつるむことである」と漫画家・東海林さだおさんがエッセーに書いている。人が集まれば派閥は生まれる。ご近所づきあいや会社の中も例外ではない。そして「おでんの世界も派閥でできている」。あらぬ方向に話が転がっていくのが、いかにも東海林さんなのである

 

 

 

▼湯気をあげるおでん鍋の小さな仕切りの中。ガンモドキや厚揚げは豆腐閥だ。張り合うのは、ちくわやさつま揚げの練りもの閥。コンニャクとシラタキは同郷なのに一緒に皿に並ぼうとはせず、彼らは意外に仲が良くない、とおおまじめに考察を加えていく

 

 

▼読んで何かの役に立つとかグルメ情報が得られるとか、愛読者はそんなことは全く期待しない。一緒に料理をハフハフほおばる場面を想像し、観察の妙味にフムフムとうなずき、最後はフフと楽しい気分になる。ハフフムフフの法則である

 

 

▼東海林さんの人気連載「あれも食いたい これも食いたい」は週刊朝日で36年間も続いた。休刊でこれまでと涙をのんだが、今年になって本紙の週末別刷りbeで復活した。隔週掲載で、きのうが3回目だった

 

 

▼初回のテーマは「アンコの人柄」、次は「おでんの世界進出」。もし実現すればガンモドキの発音はガンモドーキになるだろう、と相変わらずの脱力っぷりがうれしい

 

 

▼担当する同僚によると、東海林さんは再開にあたって「まだまだ書きたいことがいっぱいある」とおっしゃっていたそうだ。まだ食べ足りないとは。おそるべき86歳である。