<産経抄>「北方領土」から目をそらすな 2024/2/8 05:00 | 徒然なる儘に・・・
    北海道・根室半島納沙布岬(左下)沖に広がる、ロシアが不法占拠する北方領土歯舞群島(中央)、色丹島(右上)、国後島(左奥)。右奥にうっすら択捉島が見える

    パリで1867(慶応3)年に開かれた万博には、幕府の使節団が派遣されている。次の一万円札の顔となる渋沢栄一はその一員だった。現地に着いた一行は、欧州の要人らにお土産を配っている。「官板実測日本地図」である。 

    伊能忠敬の日本地図を基に、幕府の洋学教育機関である開成所が作製したものだという。そこには北方四島が正確に書き込まれている。その四十数年前にできた伊能図には、国後島しか載っていなかった。領土の歴史にピンときた人は多いだろう。 

    ▼日露間の国境を択捉島とウルップ島の間に定めた日露通好条約は、1855年の2月7日に調印された。伊能図は日本で初めての実測地図だが、わが国の版図を外国人が誤認する恐れは拭えない。それゆえ「領土」に正確を期した新たな地図を作製し、パリで配ったわけである。 

    ▼これらの経緯は、東京・虎ノ門の「領土・主権展示館」で開かれている企画展『日本の「かたち」を描く』(4月14日まで)に教わった。昭和20年の終戦時、日ソ中立条約を破って侵攻したソ連北方四島を不法占拠してから、今夏で79年になる。 

    終戦時に1万7291人いた元島民は、5208人に減った。平均年齢は88歳、返還の願いは時間との戦いである。きのうは「北方領土の日」だった。「北方領土」の言葉を聞いたことはあっても現状は知らない―。内閣府の昨秋の調査で、18~29歳の47%がそう答えたという。 

    ▼「われわれは日本人の『北方領土に対する感情』など何とも思わない」。ロシアのメドベージェフ前大統領は、人を人とも思わぬ暴言をSNSに残している。国土を荒らされ、唾を吐きかけられ、それでも「現状は知らない」と若者は目をそらすのだろうか。

     

     

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