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初心・uigokoro 16-2~影踏み~


でもとにかく、そうだ2人で良く行った店を探してみよう。

じっとしててもイライラするだけだと思い、部屋を出た。

歩き出して、そういえば今日はまだ正月だよと思い足を止めた。

休みかもしれない、休みじゃないかも・・・だけどとてもじっとしていられなかった。

街は正月だというのに賑やかしく浮かれた様子で晴れ着姿の女性たちが目に入った。

つい数時間前まで、その中にいた夕貴と自分の姿が重なって見えた。


真由と2人でお揃いの携帯に変え、ストラップもお揃いのものにしたっけ。

パワーストーンのお店の横を過ぎるとき、半年ほど前の週末のひとコマを思い出した。

夕ご飯も良く一緒に食べたっけ・・・居酒屋の暖簾をくぐって焼酎なんか飲んだりしたよね。

一緒に歩いた道を通るごとに、そんな時間が頭の中を巡ってきた。



いつのまにか陽はかげり夕刻にもなると辺りはほんのりと薄暗く風が冬の寒さを思い出させた。

「あ・・・。」コートも着ずにそのまま出て来た自分に気づく。

どうりで寒いと思った。馬鹿だな私、全然落ち着いてなんかないじゃない・・・。

大きな店は開いていても2人で行った店はほとんど正月休みでただ歩き回るばかりだった。

半分諦めながらいつも待ち合わせをしていたあの喫茶店を覗くと、偶然にも開いていた。


「こんにちは。あけましておめでとうございます。」

「あれ、ひとり?珍しいね。いらっしゃい、ひさしぶり。新年おめでとう」


今日はいつもの女の子はいなかった、マスターがひとりだけ。

「あの・・・突然変なこと訊くようなんだけど・・・。」

「うん、何?」

「私と良く一緒に来てた女の人、最近この店に来たかな?」

「いや・・・。そういえばクリスマスの終わった頃に一度、一人で見えたかな?

ちょっと大きな荷物があったようだからてっきり君と一緒に旅行にでも行くのかと思ってたんだけど。」


荷物?やはり何処かに出かけたの?でも妹さんにも言ってないって・・・。


「そう・・・ですか。ありがとう。」

「彼女、どうかした?」

「いいえ、なんでもないです。ちょっと喧嘩しちゃって・・・。」


あわててその場を取り繕うとマスターが奨めるコーヒーを悩みながらご馳走になった。

落ち着け、落ち着け・・・急に変なこと訊いてそのまま帰っちゃ駄目だろうし。

でもコーヒーを飲み終わっても、膝がガクガクしたままだ。


「何処行っちゃったの・・・。」


<16-3>へつづく