初心・uigokoro 10-2~クリスマスの夜~sideB 夕貴編
「なんだ、両手に花かと思いきや、一気に振られたな。」
この店のシェフでもある俺の叔父さんが近づいてきて言った。
「今日は・・・ある程度は予想していたから仕方ないんだ。」
と、ぶっきらぼうに答えた。思っちゃいたけど・・・言われると辛い。
叔父は二人の出た方角を見やりながら、ほかの客の食事の進み具合を見ていた。
「後から出て行った子がお前の彼女なんだろう?」
「まだ、彼女じゃないかな・・・。」
ちょうど、ついさっき思っていたことを見抜かれたようできまり悪く答えた。
甥っ子のそんな様子を知ってか知らずか叔父は言葉を続けた。
「そうか、それにしても、あの子・・・。」
「うん?」
「お前が昔から言ってた好きな人が大人になった雰囲気だったなぁ。」
「そう・・・かな?」
そういえば叔父には、そんな事言ったこともあったっけ・・・。
残ったワインを飲み干すと叔父に今日の礼を言って席を立った。
俺は店をあとにしてひとり、家に向かった。
ちょっと飲みすぎたかもしれないな、冷たい夜風が心地いい。
それにしても、あの森本って云う人。
まるで俺を酔わせて潰そうとしてたみたいだ。
自分はほとんど飲まずに俺にばかり注いでいたからな。
なかなかタクシーも拾えないでイライラしていたのだが、そんなとき携帯にメールが届いた。
「この色・・・みちるだ。」
あわててメールを開くと、ほんの短い文章なのに気持ちが穏やかになった。
>夕貴へ
今日はごめんなさい・・・。
良かった・・・。
気にしてくれてたんだね.。
本当は今日の事を持ちかけられたとき、困惑したんだ。
やっぱり、俺の事なんとも思ってないからだろうって・・・。
安心したからか、思ったよりも冷静にメールの返事を打てた。
>彼女、大丈夫だった?(^-^)
みちる、俺、気にしてないよ。
また一緒に遊ぼう。
送信してふっと肩の力が抜けた。
待つのは・・・今更苦にならない。
今まで、充分すぎるくらい待ったんだから。
もう少し、君の気持ちが俺に近づくのを待つよ・・・。
「メリークリスマス」
今、こうして見上げた夜空の向こうに君がいる。
握り締めた携帯がふるふると体を震わせていた。
<11-1>につづく