カードとサイン | The Key of Midnight

カードとサイン

久々にマジックの話。


「カードを一枚引いてください」

これは良く耳にする台詞だと思います。

でも最近は、それに加えて、

「では、そのカードにサインをしてください」

という台詞を聞く機会が増えました。


カードにサインをしてもらうのは是か非か。

この問題は、随分昔から議論されてきた気がします。

何が問題かといえば、カードにしてもらうことはお客様に心理的な抵抗感を与える――ということ、らしいです。

「トランプは52枚揃っていないと役に立たない」→「今、自分がこのカードにサインをしたら、もうこのカードは使えないかもしれない」→「トランプ全体がダメになる、勿体無い」

そんなところでしょうか。


僕はマジックをする際、ペンを持っていれば大抵、お客様にサインをしてもらいます。そうしたほうが不思議さが増す、というのが一番の理由ですが、それだけでなく、初対面の方の名前を知ることができる、というのも一つの理由です。

最近はTVの効果か、「カードにサインをする」ということがマジックでは一般的なのだ、と認識されつつあるみたいで、特に躊躇もなくサインをしてくれる方が増えています。以前驚いたのは、小学生低学年くらいの子たちにカードを引いてもらったとき、「カードにサインさせて」と頼まれたことです。

そうか、カードにサインをするのはここまで一般的になっているのか・・・・・・と思ったものですが、その反対に、サインを躊躇う方もたまにいらっしゃいます。

理由は大抵二つで、一つは「名前を教えたくない」そしてもう一つが先程述べた「勿体無い」というもの。前者の場合、何か記号か絵でも描いて下さいとお願いすれば問題ないのですが、後者の場合は、なかなか上手い対応が思いつきません。

以前は、一度サインを書いてもらって、それを消して元の状態に戻す、という演技を行ったりもしたのですが、手間がかかるのであまりやらなくなってきました。

・・・・・・とりあえず今は、お客様が複数いる場合はその中で一番年齢が低い人に書いてもらう、という形でクリアしているのですが、”サインを書かないと成立しない”マジックを行うことが多いので、これはなかなか深刻な問題です。

せっかく楽しんでもらうために演技をしていても、それが逆にストレスを与えていたら洒落になりません。

・・・・・・といっても、他に解決策は思いつかないのですが。


もう一つの問題は、「演技の後、サインしてもらったカードをどうするか」です。

一番多いパターンは、サインを書いてもらったお客様自身にプレゼントする、というものですね。・・・・・自分もこれが多かったのですが、最近少し、疑問を覚えるようになりました。

自分のサインしたカードを貰って嬉しい人はいるのでしょうか。

・・・・・・もらったけど、結局どうしようもないから捨ててしまった、という話も聞きますし。むしろそちらのほうが自然でしょう。

プロであれば、「お客様がサインしたカード」の裏に自分のサインを書いて渡す、というのが一番無難で、実際にそれをやっている人を何人も見ましたが、アマチュアではあまり真似ができません。

大体、「サインを書いて頂いた」のだから、それは自分が丁寧に受け取っておく、というのが礼儀ではないかな・・・・・・と。

そんなわけで最近は、サインしてもらったカードはとっておく、という風に変えました。・・・・・・ただ、一日に何十人にもサインをしてもらったりすると、さすがにサインを見ただけでそれを書いてくれた人のことを思い出すのはほぼ不可能に近いです。

・・・・・・それもまた失礼ではないか、と。だからといってどうしようもなく、やはり解決策はないのですが。

もっとも、そんなことをいちいち気にする観客の方はいないかもしれませんが・・・・・・。

でも、大量にたまったサインカードを何かの拍子で見ると、何か申し訳ない気持ちが湧いてきます。


また話は変わるのですが、カードマジックをやっている人はサインを書いたり書いてもらったりということが割と日常的なことになっている場合が多いですね。今までプロ、アマ問わず色々な方の演技を見てきましたが、多くの人がサインを書いてもらう、あるいはサインを書いていました。

自分もサインを書いてもらうだけでなく、書くことも多いです。

サインを書く、というと「誰もお前のサインなんか欲しくない」といわれそうですが、自分のサインを一つ持っておくと役に立つことが良くあります。あるマジックでは、練習時間の大半が「自分のサインを書くこと」だったりもします。実際、”自分のサイン”を正確に書く能力(?)が要求されるマジックもあるのです。

また、小さい子を相手にマジックをしていると、サインを求められることもそれなりにあるので、自分のサインは「持っておいたほうがいい」ことに変わりありません。

でも、サインを”する”のにも、やはり問題が。

自分の場合、サインしたカードはやはり、演技が終わった後に小さい子にあげることが多いのですが・・・・・・。

以前、自分がマジックを見せたことがあるらしい子に偶然会って、「まだ持っています」と僕のサインしたカードを見せられたときは本当に赤面しました。・・・・・・その人の名前も覚えていない、顔も覚えていない。その上、サインを見たら、もう滅茶苦茶に下手な字だったからで・・・・・・。当然の如く自分のサインしたカードなんて後で捨ててくれるだろう、と思っていたので、これには少し反省しました。

「アマチュアだから」という理由で、一人一人のお客様に対して真摯に向き合わないのは、自分勝手にも程があるな、と。

それで最近は、自分のほうからサインをする必要性があるマジックはほとんどやっていません。どうしても、という自己紹介の場で使うくらいで・・・・・・。


長々と書いてきましたが、「サインを書いてもらうこと」「サインを書くこと」について、昨年から考える機会が増えたので、折角だから――と思ってまとめてみました。。

・・・・・・長いことマジックをやっていると物の見方が変わることがよくありますが(尤もそれは別にマジックに限ったことではないと思いますが)、マジックをやっていて”サイン”という行為が日常的になってしまっている人は、少しそのことについて考えてみても良いのではないか、と思います。

当たり前といえば当たり前ですが、演技をする側にとっては慣れたことでも、普通の人にとってはカードに「サインをする」のも「サインをしてもらう」のも、非日常的なことなのですから。

・・・・・・結局は、観客側の方の心理の問題という部分もあるので、「どうすればいいのか」はそう簡単にいえるものではない、と思いますが。


高校最後の公演までに、納得できる落ち着き所を見つけたいものです。