道尾秀介 「ラットマン」
- 道尾 秀介
- ラットマン
姫川はアマチュアバンドのギタリストだ。高校時代に同級生3人とともに結成、デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年になり、メンバーのほとんどは30歳を超え、姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代した。そこには僅かな軋みが存在していた。姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、心に暗い影を落としていた。
ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。――事件が解決したとき、彼らの前にはどんな風景が待っているのか。
新鋭作家の新たなる代表作。
◆ ◆ ◆
本書は「シャドウ 」「ソロモンの犬 」と併せて、青春三部作の完結編となる作品だそうです。
帯に書かれたコピー、
ようこそ。ここが、青春の終わりだ。
は、タイトルと共に本書の内容を見事に表していると思います。
ミステリとしての意外性は十分にあります。「ソロモンの犬」で見られた”疑う読者を騙す”構造や、「シャドウ」のような大量の伏線も仕込まれています。
・・・・・・でも、そんなことじゃなくて。
本書が本当に素晴らしいのは、ミステリという形式を利用して人間を描ききったところ。道尾さんはずっと、「ミステリを通して人間を描きたい」といった旨のことを語っていましたが、正直これまでの作品では、それが完璧に達成されているとは思いませんでした。
でも、「ラットマン」は、それを達成できた――と思います。
静謐な空気に包まれた物語で、真相もこれまでの作品に比べれば”静かな驚き”を呼び起こしてくれるような、そんなタイプのもの。
そして、その真相が完全にテーマに直結している。
隙が無い。物語として完成されている。
そんな気がしました。
文章もとても綺麗で、一行一行が読者に与える効果を計算して書いたのではないか・・・・・・と思ってしまうほど。
構図の美しさが半端ではなく、最後の数ページで明かされる真相が単なる意外性や驚き以上の衝撃を読者に与えます。
帯の「注目を集めてきた新鋭が、ついに到達した最高傑作」は決して誇張でもなんでもないと、読み終わって思いました。
確かにこれは、最高傑作。
ミステリとしてではなく、ミステリを”利用した”青春小説として。「シャドウ」や「ソロモンの犬」で感じた歪さもなく。最初から最後まで、完璧。
読み終わった後には、切なさが残る。何故か不思議な爽やかさもありながら、それでも絶望的な寂しさが残る。ラスト六行は何度も読み返してしまいました。
この真摯な問いかけは、きっと誰もの心に残るでしょう。
とてつもない意外性があるわけではない。思わず号泣する真相というわけでもない。派手さはない物語。でもこんな傑作、なかなか無い。
きっとこれはまた読み返すことになるだろう――と、読了後すぐに確信しました。
上に引用したキャッチコピーに惹かれるものがある人は、是非とも読んでください。物語のテーマとミステリとしての仕掛けが完全に直結しているという意味では、これ以上は無いのではないかとさえ思いました。本当に素晴らしい、一冊です。9点。
それにしても・・・・・・道尾秀介、本当に只者ではないですね。今後、本書以上の作品が果たして書けるのかどうか。・・・・・・簡単ではないと思いますが、きっと書いてしまうのでしょう。「ミステリを通して人間を描く姿勢」は、徹底して欲しいです。