小林泰三 「忌憶」 | The Key of Midnight

小林泰三 「忌憶」

小林 泰三
忌憶

何をやってもうまくいかず、悲惨な生活を送る直人は、幼い頃よく見た夢の中を彷徨う。
直人の恋人・博美は、腹話術に盲執する男の姿に幻惑される。
直人の親友・二吉は、記憶障害となり人生の断片をノートに綴る…。
彼らの忌まわしき体験は、どこまでが現実で、どこまでが幻想なのか。
読者を狂気の世界へと誘う禁忌の三重奏…。
著者初の連作ホラー。


 ◆ ◆ ◆


色々なカタチの「記憶」をテーマにした、連作ホラー。

全体を覆う邪悪な雰囲気は共通しているのですが、

それぞれの作品は全く違った味わいがあります。


個人的に、一番面白かったのは三話目の「垝憶」。

映画「メメント」などでも取り上げられた「前向性健忘症」が題材として使われているのですが、その使い方が小林泰三らしい。ページを捲る手がとまらない短編です。

何も先入観なしに読んで欲しい傑作。

ホラーとミステリの半ばにありながら、どちらの面白さも失っていない。

連作の最後にこの作品を持ってきているところも、また巧いですね。

後味は悪いのに、決して嫌ではない。

読み終わっても、「忌憶」という作品世界から抜け出せないような、そんな余韻が残ります。



一話目の「奇憶」は、全体の半分近くを占める中篇.

量子力学に平行世界と、小林さんのの最高傑作「酔歩する男」と世界観が共通している部分もあって、読んでいて非常に面白かったです。

さすがに「酔歩」ほどのインパクト、酩酊感は感じられませんが、代わりにクトゥルー神話などの要素もあって、小林作品のファンなら「おお!」と思うような作品でしょう。

しかし、これは読んでいて痛いです・・・・・・。

この妙なリアルさが怖い。

どうしようもなくダメな主人公ですが、それに微妙に共感できてしまう自分が・・・・・・。

連作の中の一話、という視点から見ると、この話と三話目に出てくる二吉を比べてみると面白いですね。

主人公が到達した先は一体・・・・・・。

謎が多いですが、それがまた魅力的です。


二話目の「器憶」は腹話術関連の話。

そのままいけば良くあるような話、なのですが・・・・・・・。

段段と歪んでいく過程、そしてオチが、まさに悪夢を見ているようで。

このラストは予想外。くらくらします。


三作品、どれをとっても外れなし。

やはり、小林作品は文句無しに面白いです。

現実感の揺らぎを味わわせてくれる、そんな世界。

「考える余地」が残されているのが小林作品の特徴だと思いますが、本書は特に謎が多いので、考察のしがいがありそう。

お薦めの一冊。8点