小川勝己 「眩暈を愛して夢を見よ」
- 小川 勝己
- 眩暈を愛して夢を見よ
- 失踪した元AV女優にして、高校時代の憧れの先輩・柏木美南を追いかけていた須山は、調査を進めるうちに彼女の悲愴な過去を知る。
- 一方、美南をなぶり、卑劣な虐めを繰り返していた関係者たちが、謎の言葉と共に次々と殺されていった。やがて事件は一応の解決を見るが、そこからが本当のミステリの幕開けだった―。
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文字通り、眩暈が味わえます。
これほどまでの酩酊感はなかなか味わえません。倉阪鬼一郎「十三の黒い椅子」あたりを読んだときに感じたものと似ているかも。
ネタバレなしで語れるような物語ではないことは確かです。いやそもそも、どこまでがネタバレなのかわからないのですが・・・・・・。
前半は普通の小説なのですが、問題は中盤以降。
単なるミステリから、急に変な方向へと話が転がっていきます。
少しずつ歪んで、崩れていく物語。
とはいえ、第二部まではまだある程度理解が及ぶ範疇。
確かに変な話ではあるものの、前例もある趣向だし、最後にはどうにか真っ当なオチがつくのだろうな、と思っていました。
それが、第三部は・・・・・・。
ただでさえ歪な物語がさらにひっくり返されて、ついていくだけで精一杯でした。しかも結局、ついていけなかったり。
衝撃的なトリックがいくつも明かされたりするのですが、驚くというよりむしろ、困乱するばかり。
くらくらします。
・・・・・・もう、ここまで来ると狂気。
ミステリとしてどうか、といったレベルではなく。この、何か一線を越えてしまったような感じがすばらしいです。
何が真相かなんて、全くわからないのですが。・・・・・・というよりも、何を信じればよいのかすらわからないので、果たして真相が導き出せるのかどうか、それもわからないのですが。
とりあえずラスト2ページを信頼するとすれば、この物語は一体なんだったんだ? ということになってしまいますが、それで良いのでしょうね。最終的にその極点に落ち着くのも、この眩暈そのもののような物語にはふさわしいように思えます。
読んでいて何箇所か不快に感じた部分もあるのですが、それも確信犯でしょうし。
おかげで、作品全体からにじみ出ている悪意や、混沌とした気持ち悪さは十分に感じることができました。また、そのような部分があるからこそ、ラストの崩壊がある意味美しくもあるわけで。
個人的に、ストーリーそのものが全く好みではなかったのが残念ですが、この眩暈が味わえただけで十分です。
「撓田村事件」のような真っ当な本格ミステリを読んだ後だけに、このような形式には驚かされましたが・・・・・・。
インパクト、という意味で言えば、本書のほうが圧倒的に上です。好き嫌いが真っ二つに分かれるのは確実ですが、苦手そうでなければ読んで損はしません。
少なくとも、記憶には残るでしょう。良い意味でも悪い意味でも。
この感覚は、体験しておく価値があります。8点。