広瀬正 「マイナス・ゼロ」 | The Key of Midnight

広瀬正 「マイナス・ゼロ」

広瀬 正
マイナス・ゼロ

タイムマシンを駆って、少年時代の自分の住んでいた懐しい古き良き時代にやってきたひとりの男……。
非凡な空想力と奇想天外なアイディア、ユーモア精神と奇抜などんでん返しで、タイムトラベル小説の最高峰と謳われ、今や日本SF史の記念碑的存在となった著者の第一長編小説。
 
 ◆ ◆ ◆
 
各所で「タイムトラベルものの傑作」と評判高いこの作品。
何が何でも読まないと、と思いつつも、絶版で長いこと見つからず、先日ようやくBOOK OFFで入手できました。

タイムトラベルものには、大まかに分けて「未来」に行くものと「過去」に行くものの二種類がありますが、本書は後者に属します。
昭和7年――戦前の日本にタイムスリップし、そこで暮らすことになってしまった主人公。
中盤はひたすら戦前の日本での主人公の暮らしが書かれるのですが、この部分が予想以上に楽しめます。
驚くほど緻密で、しかも読みやすい。
所々にユーモアが含まれた文章なので、読んでいてほっとします。
今の日本は確かに随分暮らしは楽になったのでしょうが、
こういった作品を読んでいると、「戦前の日本」に対して憧れを抱きますね。
体験してもいないのに、何故か懐かしさも感じます。

タイムトラベルものとして見た場合の出来は、発表された時期を考えれば最高レベルだと思います。
今読んでも、若干の想像はつくものの、決して褪せてはいません。
実際、ラストのどんでん返しは巧い、と思わせられました。様々な個所に散りばめられた伏線が一点に収束していく様は、タイムトラベルものの醍醐味です。
タイムパラドックスの処理の仕方も、良くあるものですがストーリー的には良かったと思います。
まさに「タイムトラベルものの原点」といった感じですね。
それも、日本の作品なので、より親しみがもてます。
あまりSFを読みなれていない読者(自分もですが・・・・・・)には、丁度良い作品でしょう。
全編通して、悪意のようなものが存在しない暖かいストーリーなので、読後感も良し。
タイムトラベルものらしく、ラストは綺麗でロマンチックですし。

時系列が錯綜して、誰が誰かわからなくなる、というような複雑なタイムトラベルものも面白いですが、やはりシンプルが一番だな、ということを改めて感じた作品。
10点に近い9点
今年のベストクラスです。
入手がし辛いのが難点ですが、古本屋を巡ってでも手に入れる価値があります。お勧めの一冊。