石持浅海 「月の扉」
- 石持 浅海
- 月の扉
週明けに国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生した。
3人の犯行グループが、乳幼児を人質にとって乗客の自由を奪ったのだ。
彼らの要求はただ
ひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。緊迫した状況の中、機内のトイレで、乗客の死体が発見された。
誰が、なぜ、どのようにして―。
スリリングな展開とロジカルな推理!デビュー作『アイルランドの薔薇』をしのぐ「閉鎖状況」ミステリーの荒業が、いま炸裂する!
◆ ◆ ◆
最近気に入りつつある石持浅海さんの長編第二作。
思わず眺め入ってしまうような美しい表紙に惹かれ、この人の名前を知る前から「いつか読んでみよう」と思っていた作品です。
今度の閉鎖状況は飛行機の中。
ハイジャック犯の三人が中心となって書かれています。こういうのは少し珍しいのかも。
僕は「ハイジャック」と聞いて、ずっと飛んでいる飛行機を予想していたのですが、実際には空港を離陸する前の、止まったままの飛行機の中で話は展開します。
そして、占拠された飛行機の中で一人の女性が死亡し、
自殺か他殺かもわからぬまま、テロリストは発見者の一人を探偵役に指名する。
「すまないが、この事件の真相を調べて、わかったら教えてくれないか」
こんな探偵役の設定はあまり前例が無い・・・・・・というか、僕が思い当たる限りでは無いです。
ただでさえ、ハイジャックされた飛行機の中という状況が特殊なのに。
事件自体は、状況が状況なので犯人候補がかなり絞れてくるため、犯人はわかってしまう人もいるかも。
とはいえ、真相に至るまでのロジックのやり取りは非常に面白いので、それだけで十分。
そして、本書のもう一つの謎、
ハイジャック犯たちの目的。
そして、それに絡めたラスト。
僕は事件の真相よりもこちらのほうが面白かったですね。
犯人が明かされたあとに待ち受ける展開は、思わず呆然としてしまうくらい予想外。
タイトルの「月の扉」が示すもの。
表紙の写真にもつながる幻想的で美しい情景・・・・・・。
これもまた賛否両論分かれそうなラストですが、自分はとても好きです。
最後の一文も何ともいえない余韻が。
ところで、作中でほとんど神のごとく扱われているほどのカリスマ性を持つ「師匠」ですが、果たしてこのような人物は実際に存在するようなものなのか。
この人の凄さ、というのが、ハイジャックの動機にも意外なラストの展開にも関わってくるのですが、ここまでさせてしまうほどのカリスマ性って一体・・・・・・。興味深いです。
「水の迷宮」「扉は閉ざされたまま」に比べると、若干落ちるものの、それでも十分に楽しめる作品。
7点です。ロジック重視の人も、物語性重視の人も、どちらも楽しめるかと。
石持さんの作品を初めて読む人にも、これは良いかも。