「容疑者Xの献身」は本格か否か | The Key of Midnight

「容疑者Xの献身」は本格か否か

本当なら試験中は更新しない予定だったのですが、カラクリリリカル のBさんや、Pの食卓 のPさんのブログでこの問題を知り、色々と考えてしまったので、書き留めておきます。

(要は試験の現実逃避だろ、という意見は置いておいて)

ちなみに可能な限りネタバレに触れる表現は避けていますが、未読の人は読まないほうが、これから読むときに素直に楽しめると思います。


この問題について知らない方は、二階堂黎人の黒犬黒猫館 の掲示板・日記を読んでいただければ判るかと思いますが(当然ネタバレなので注意)、議論の中心となっているのは、

 

東野圭吾 「容疑者Xの献身」が、はたして本格なのかどうか

 

ということです。

二階堂さんが「容疑者X」はきわめて本格には近いが本格ミステリではない、という内容のことを日記に書かれたことが元となり、この議論が持ち上がりました。

僕自身も以前に書評 を書いていますが、この本を読んだときから今まで、僕はずっとこの作品は本格である、と思っています。

まあ、大した冊数読んでいない人間が言うのも何なんですけど・・・・・・。

本格の定義が人それぞれ、というのは当たり前なので、別にここで意見を語ってもしょうもない気はします。

ちなみに、容疑者Xのネタは、5ページ目で石神が使うであろうトリックの方法に対しては検討がつき、死体が発見された時点で作者から読者へのトリックに関しても検討がつきました。

これはあくまで推測に過ぎません。

ただし、結果的にこの推測は湯川の考えと一致していました。

まあ、どこで気づいたかということはおいておいても、湯川が自分の考えを語る前に、ほぼ同じ「推測」に辿り着いた方は割と多いのではないか、と思っています。

全く違う推測に辿り着き、同時に、その考え方であっても十分事件の真相としてほとんどの人が納得しうるであろう、と呼べるものを思いついた人はいるでしょうか。

おそらく、まずいないと思います。

なぜなら、これはミステリとして、一つの真実が存在することを前提として書かれた物語であるから。

・・・・・・つまり、「伏線が存在する」

投げ出したままの伏線が大量に残るような作品は、まあ、あまり好かれないでしょうね。

ただ、本書において提示される「推測」は、三人称視点から与えられた「手がかり」を全て回収できる。

同様に、「神の視点」であることから、我々はその「手がかり」を見つけ、つなげることによって、真相の形をある程度見通すことができる。

更に言えば、本書では明らかに、母娘や刑事とのやり取りから「何か隠された事実がある」ことを読者は知ることができる。

また、何が隠されているのか、ということに関しても、それに対して仮説を立てることが可能――更に言えば、作中人物の心理的な問題、感情などから、その仮説が正しいであろうことも読み取ることができる。

これら全てから導き出される答えは、おそらく作者が予定していた真相の形に極めて近いものとなります。それが、基本的にはとある一つの形であることも、間違いないでしょう。


さて、それではまた、別の観点から。

この「本格か否か」という問題は小説にゲシュタルト理論を用いてやれば判りやすいと思います(厳密には少々違いますが)。

有名な図ですが、カニッツァの三角形 を見てください。

これを見て三角形が存在する、と認識しない人がいるでしょうか。

おそらく、まずいないでしょう。

本格、というのは、これの「隙間」にも線が引かれた完璧な三角形である、とするならば、

この図で見えているのが「容疑者X」。

これが三角形に見えない人がいないと思われる以上、

これは、我々の意識としてはあくまで三角形に等しい

・・・・・・要は、

読者の目に「本格」として映る以上、それを「本格」と受け止めることは正しい

という意見。

・・・・・・なんかもう、破綻しまくってる気がしないでもないですが(苦笑)、

もし、三角形なんて見えないよ、見えるけれどこれは三角形じゃないよ、という意見があれば、それはそれで正しい

でも、ほとんどの人がこの図形を三角形と認知したというのも事実。

その証拠が、容疑者Xが本ミスベスト1を獲得したということである。

また、僕も、そう認める一人。

だから、僕にとって「容疑者Xの献身」は本格だ――

以上。


論理的におかしな点があるかもしれませんが、とりあえず最後の三角形の例だけ、見ていただければよいと思います。

別に、この考え方が100%正しいと僕も思っているわけでもないので。

賛否両論あると思いますが、ご意見がある方お待ちしています。


あ、そうそう。

二階堂さんが提示されていた、容疑者Xの「真相」については、それはないでしょ、と。

まあこれが真相だ、っていうならそれは本格ではないと思うけど・・・・・・。

これこそ伏線も何も無い、ただ一人の読者としての「受け止め方」なのでは?

これを真相と言い切ってしまうのはどうよ、と思わざるを得ません。


ま、結局、本格であるか否かは、読者の目にどう映るかによる、ということが言いたかっただけでして。

問題なのは、自分の意見を人に押し付けようとすることであり、同時に、誰かの意見を見て、それが正しいのだと錯覚してしまうことだ、と。

人の意見に影響されるのも悪くは無いけれど、結局のところ一番重要なのって、自分がどう考えるのかじゃないの?

・・・・・・なんか、この年でこんなこと言ってるのも生意気だな、と自分でも思ったりしますが、

これだけ当たり前のことを、多分、完全にわかっている人はそんなにいないと思う。

僕もまだ、中途半端にしかわかってません。だから、自分に言い聞かせる意味もこめて・・・・・・。


って、

こんなこと書いている暇があるなら、試験勉強しないと・・・・・・! なにやってんだろ自分・・・・・・。