海外では「ミヤザキがゼロファイターの設計者の映画を作った」と酷評が多かった『風立ちぬ』

●夢に逃げ場を求めざるを得ない悲惨な現実。
現実は悲惨なので夢にしか逃げ場がありません。

世界恐慌の影響は受ける、ほとんどの飛行機は燃えるか落ちる、ドイツ人はケチで嫌な人種、罪を犯したわけではないのに特高に監視される、主人公の妻は死ぬ、妹は医者になってもヒロインを救えない、せっかく助けた若い使用人の女はいつの間にか人妻になっている。

救いが全くありません。だから夢が逃げ場になっているのです。

●『よく飛ぶ紙飛行機を作った』ことだけしか救いがない。

軽井沢だけが夢のように異様に明るく描かれます。

『軽井沢でよく飛ぶ紙飛行機を作れました』
これしか救いがないくらい、ものすごく暗い映画です。

●やがて、夢すら崩壊。

その逃げ場だった夢もやがて荒廃します。最後は飛行機の残骸で埋め尽くされ、待っていた主人公の妻も消え、あれだけ編隊を組んでいた零戦は1機も二郎のもとに帰ることはありませんでした。夢にしか逃げ場が無いのに、夢も崩壊してしまいます。あとには、夢の中に出てくるカプロニおじさんが勧めるワインだけが残ります。

●火だるまになったり、墜落する飛行機。
ほとんどの飛行機は燃えるか落ちます。
実際そうなんですが、渡洋爆撃での九六式陸攻は被弾してすぐ炎上し火だるま。

爆弾を機外に吊るしているし、防弾装備、自動消火装置がない、長距離を飛行する護衛機がなかったことが原因と言われてます。

夢に至っても例外ではなく、カプロニおじさんの飛行機は翼が折れて墜落。九試単機は落ちませんが、代わりに奥さんが消えます。

●すべてが矛盾する。

この映画は全てが矛盾しています。2つは取れないってことを示唆しているのでしょうか。
・死にそうな女性を妻に迎えるが、妻は勝手に消える。
・零戦の設計者の話なのに零戦はほとんど出てこない。
・戦争反対だけど戦争の道具を作っている。
・目が悪いのに飛行機に乗りたがる。
・飛行機か女か選択を迫られる。
・主人公は零戦の設計者なのに、海外の飛行機が目立つ。
そして、これらの矛盾は解消しません。

●日本のリアルな描写

3等客車は赤帯、2等客車は青帯がきちんと描かれています。

筆者が一番リアルだと感じた点は『飛行場まで牛で引いている』描写。自動車化が進み工業力のあるステーツでは、想像できなかったでしょう。大戦末期になると機銃掃射を受けることも多くなっていきました。
これでも『勝つ』と洗脳していた軍国主義。クレイジーです。

リアルな暗い日本を描いている、いい映画なんですが、説明が少ないような気がします。