「─── はー・・・・・・」
「何溜め息吐いてんだよ!」
無意識のうちに溜め息を吐いていた月城浄華(つきしろじょうか)は後ろから背中を思い切り叩かれ、反射的に振り返った。
「・・・望、またお前か」
こんなことをするやつは一人しかいないのだが、つい振り返って背中を叩いたやつを見てしまう。
案の定、そこには親友の神崎望(かんざきのぞむ)が立っていた。
望は浄華の反応を見ながら楽しげな表情を浮かべている。そんな顔を見ると何となく怒る気になれなくて、また
溜め息を吐いた。
「毎日毎日力いっぱい叩くのはやめろよ。手形残ってんだからな」
ヒリヒリする背中を摩りながらうんざりした口調で告げると、望は更に楽しそうな顔をする。
「へえ。じゃあ今日もきれいに跡付いてるかなー」
望はそう言うと浄華のシャツの裾を掴んで勢いよく捲り上げた。
「な・・・っ!?」
気づけばくっきりと赤い手形の付いた背中と胸が露になっている。顔の温度が上昇するのを感じ、浄華は必死で望の手を引き剥がそうとした。
忘れていたわけではないが、ここは学校の教室なのだ。当然クラスメートが・・・特に女子が、ニヤニヤとした笑みをこちらに向けてくる。
「離せよっ!」
何とか裾を下に下ろすと今度は望が溜め息を吐いた。
「はー。浄華はクソ真面目過ぎるんだよ。これくらいみんなやってるだろ」
「 うっせーな。やりたきゃ他の友達とやりゃーいーだろ」
「えー、浄華にやった方が面白い。反応が」
「・・・俺はてめーの玩具かよ」
「違うよ。俺のこと一番よく分かってくれてる親友」
「!」
望に他意が無いのは分かっているが、それでもどうしてもドキッとしてしまう。
それなのに望は更に心臓が揺れそうなことを言ってきたのだ。
「てゆーか浄華が女だったら絶対結婚するのに」
「はあ!?」
望はいつものように軽い口調でさらりと言った。
「だってお前なら俺のことよく知ってるから何か上手くいきそうじゃん。女だったら超美人そうだしな」
冗談を言って笑っている望に自分の気持ちなど言える訳が無い。
―自分は男でも結婚したい。とは絶対に。
望と出会ったのは6年前。小学4年生になった春のことだった。
子供なら誰でもしそうないたずらも、軽い悪ふざけも全くしたことがなかった浄華は周りから真面目すぎると言われ、友達がほとんどできなかった。
それとは対照的に、望は許される範囲のいたずらなら何でもするし、軽いを越した悪ふざけも平気でするような子供で、明るい性格から誰からも好かれていたので、普通に考えて浄華とは全く合わないはずなのだ。
しかし、軽い性格の望は一人でいる浄華にしつこいくらいに話しかけ、友達になろうとした。
浄華はそんな望が最初は本気で疎ましく思っていたが、少しずつ気軽に話せるようになり、気づけばいつもいっしょにいる親友になっていたのだった。
初めてできた友達だったから、恋心との区別がつかなかったのかもしれない。
しかし、その頃の気持ちは今も変わらず持ち続けている。
「望ー、A組の子が呼んでるぞー」
クラスメートの男子が望を呼ぶ声がする。
「おー、今行く。浄華、先帰るなよ」
「分かったから早く行って来い」
望は教室の出入り口に立っているA組の女子の所へ行き、そのまま教室の外へ歩いていった。
あれはどう見ても告白だろう。こんな複雑な気持ちになるのは慣れてしまったが、あのあと望がするであろうことを考えるとどうしても腹が立つ。
「望・・・」
自分でも聞き取れないような声でそう呟いたあと、無意識のうちにまた溜め息を吐くのであった。
