「・・・遅せーな・・・」
望が一緒に帰ろうと言うから昇降口で待っているのだが、なかなか出てこない。
時計を見ればすでに5時。日も沈みかけてきている。
何回メールを送っても返事がないし、校舎から出てくるクラスメートに見掛けなかったか聞いても誰も見ていないという。
まさか自分を置いて先に・・・とも思ったが、そんなことは今まで一度もない。
「どこにいるんだよ・・・」
浄華は仕方なく校舎へ戻り、望を捜すことにした。
外のグラウンドは運動部たちでにぎやかだが、日の暮れかけた校舎の中は誰もいないようにシンとしている。
とりあえず3階のDクラスの教室へ行ってみて、いなかったら電話をかけようと決め、階段を上った。
Cクラスの教室の前まで来ると、Dクラスの教室の方から机がカタカタと揺れる音が聞こえてきた。
(他の人がいるのか・・・?)
何となく足音を立てずにそっと歩き、こっそりと耳を立てるような動きをしてしまう。
(・・・って、何やってんだ俺は・・・)
自分の行動が急に恥ずかしくなり、何故かCクラスの教室に入る。
しかし、隣の教室からでも物音が聞こえてきた。
物音に混じって、女子の声も聞こえる。
言葉になっていないような声だったが、はっきりと聞き取れた言葉もあった。
「のぞ・・・む・・・くん・・っ」
(えっ───・・・)
頭の中が急に冷えていき、足元が大きくぐらつく。
普通の会話の言葉なら、大して気に留めなかっただろう。しかしあの声は───。
「・・・・・・っ!」
急いで教室から飛び出して、階段に向かって走り出した。
それ以上聞きたくなくて教室を飛び出したのに、足は何故かDクラスの教室の前を通って階段へ向かうように動く。
すごい速さで流れていく景色の中で、一瞬Dクラスの教室の中が半開きになったスライドドアの向こう側に見えた。
それは、浄華がこの世で一番見たくない光景―――望が誰かと身体を重ねる光景。
浄華は一気に階段を駆け下り昇降口を出ると、一刻も早く学校から離れようと、全速力で走り出した。
「は・・・はあ・・・っ・・・」
学校から走って自宅のマンションの部屋に駆け込む。
スクールバッグをソファへ放り投げ、そのままベッドへ倒れ込んだ。
今更何を傷ついているのだろう。
望が複数の相手と経験があることくらい知っていたじゃないか。今日はたまたま、その現場を目撃してしまっただけであって―。
頭で納得できても、心で納得できないこともある。今、まさにそれを思い知らされている気がした。
ベッドのシーツを強く握り締め、込み上げてくる感情を無理矢理押さえ込もうとしたが、感情は止めどなく湧き上がり、遂には溢れ出す。
そっと自分の頬に触れてみると、涙が流れていることに気づいた。
涙は直ぐには止まらず、次々と流れてくる。
「・・・望・・・」
こんな思い、いっそのこと捨ててしまえば楽になれるだろうに。
叶わない恋など、自分を苦しめるだけだ。しかし、捨ててしまえるものならとっくに捨てていた。
好きで好きで仕方がない。自分でもどうしようもないくらいに。
「望・・・っ!」
薄暗い部屋のベッドの上で、浄華は一人、大好きな人の名前を何度も口にしながら泣き続けるのだった。
