「月城くん!」


振り返ってみると、髪を横で束ねた女子が顔を赤くしながらこちらを見ている。


(あー・・・もしかしてこの子がミキちゃんかな・・・)


本人に聞いて確かめても失礼だと思い、とりあえず用件を聞くことにした。


「えっと・・・どうかした?」


「あ・・・あの、神崎くんがこれ、渡しといてって」


そういいながらノートを渡してくる。


そのノートはこの前望に勉強を教えた際、どうしてもと言われて貸した浄華の数学のノートだった。


「あ・・・どうもありがとう」


ただそれだけのことだったが、浄華は何か引っかかった。


(何で望が直接持ってこないんだ?)


いつもなら朝会った時に渡すとか、放課後に渡すとか、酷いときは自分の席から浄華の席まで投げて渡すとか、とにかく望自身が直接持ってきていたのだ。


それをわざわざ何で、他の人に渡すように頼んだりしたのだろう。


「・・・えーと・・・ミキちゃん・・・だっけ?」


ずっと黙っているのも居づらかったため、浄華は思い切って聞いてみた。


「う・・・うん!名前覚えててくれたんだ!」


この間、ミキちゃんという子が自分に好意を寄せている、というのを望から聞いたが、そんなことを言われてもどうしていいのか分からない。嘘だったら自分が気の毒だし、本当だったとしても思わせぶりな発言をしてしまいかねない。


「月城くんって、数学得意なんだね。うらやましいよ」


「いや、別に得意ってわけじゃ・・・」


得意というより努力の賜物だと言ってやりたかったが、引かれそうなので謙虚なことを言う。


「こ・・・今度、私にも数学教えてくれないかなあ・・・」


ミキは急に小さな声でうつむきながらそう言った。


急で少し驚いたが、断る理由もなかったので、とりあえず返事をする。


「あ・・・いいよ。テスト前あたりにやろうか」


「ホント!?ありがとう!」


ミキは 急に表情が明るくなり、嬉しそうに笑った。




職員室から教室へ戻る間に通る廊下で、浄華はミキの声を聞いた。


「月城くん勉強教えてくれるって!ありがとう神崎くん!」


(え・・・?)


思わずその場に立ち止まって話を聞くと、望の声も聞こえてくる。


「良かったね。その調子で行けば、浄華も落ちるかもしれねーな」


その話を聞いて初めて、望が協力していたことに気づいた。


(俺とミキちゃんを付き合わせようとしてたのか・・・?)


きっと望に悪意はない。ミキか浄華のためにやったのだろう。


しかし、浄華は目の前が真っ暗になるのを感じたのだった。





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