「・・・ごめん、全然分かんないや」
「何言ってんだよ。今日習ったばっかだろ」
気づけば夜の11時。3時間ほど前から数学の復習をしているのだが、望の理解力の無さに浄華は困り果てていた。
「お前、他の教科はそこそこ出来るくせに何で数学はこんなに酷いんだよ」
「うわ、自分は何でも完璧とかいう自慢ですか」
教科書で望の頭を叩いてからまた教科書に目を移す。
「痛てえ!角で叩くやつがあるかよ!」
「俺だって毎日お前に叩かれてんだからそれくらいで文句言うな。ほら、続きからやるぞ」
望はノートに書かれた問題をじっと見て黙り込んでいる。
だんだん疲れも眠気も溜まってくるけれど、望と二人きりでいられる心地よい時間は何物にも変えがたい。
「・・・ここってあの頃から変わんないな」
ノートを見ていた望が唐突に話し出した。
「あの頃?」
「うん、俺が初めて来た時から」
望を初めて家に連れてきたのは小4の時。家に友達を連れてきたのは初めてだった。両親も相当喜んでいた気がする。
「マンション入ったの初めてでさ、窓からの景色が高くてすげー面白かった。何か俺ん家と全然違うっつーか。親も二人ともモデルみたいだったし・・・あ!」
急に望が黙り込んだ。明らかに「しまった」という顔をしている。
「ご・・・めん・・・」
「・・・別にいいって」
浄華の両親が行方不明になったのは中1の夏。
旅行の寄り道で海の近くの崖の上に行かなければと何度思ったことだろう。
浄華が車に戻っている間に崖崩れが発生し、両親はそれに巻き込まれて海へ落ちていった。
その時は目の前で起きていることが信じられなくて、体が全く動かなかったのを覚えている。
その後、何度も両親の捜索がされたが、見つかることは無かった。
行方不明とはいうものの、浄華にはもう自分と同じところに両親がいないことが分かっていた。
親戚がいなかった浄華は両親が遺した遺産で不自由なく暮らしてこられたが、いくら物や金があっても寂しいのに変わりは無い。
その頃から望は浄華の家に泊まりに来たり、逆に浄華を自分の家に連れていったりするようになったのだ。
望の両親も浄華を可愛がってくれたので、両親を失った浄華は本当に救われていた。
「今日も心配して泊まりに来てくれたんだろ?ありがとな」
すると、望は何故かあわてて否定した。
「ちっ・・・違げーよ!ただ俺が勉強教えてもらおうと思っておしかけただけで・・・」
真っ赤になっている顔を見れば、照れ隠しで言っていると言う事くらいすぐに分かる。
望のこういうところも好きでたまらないのだ。
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