(12月18日付新聞コラム)
いよいよ来週23日に富山市内電車環状線が開通する。
新しい軌道をセントラムが走行する景観に、多くの方が心躍らせることだろう。
「電車は東京市の交通を一変させてしまった」という一節が、明治の文豪田山花袋の小説『蒲団』に出てくる。近代文明の波をかぶりつつある明治の東京と、平成の富山。時代も空間も全く異なるが、共通して感じとれるものがある。それは「変化への期待」の空気が漂っていることである。電車の交差する所が繁華街だという花袋の指摘は正鵠(せいこく)を射ている。
昭和30年代後半に初めて市電に乗ったころからの郷愁もあるが、電車という乗り物は存在自体が楽しく、人をとりこにする。富山市出身の本木克英監督の映画「釣りバカ日誌」でも、市電の情感が効果的に使われていた。
電車のすごさは、走っているその土地まで人を好きにさせてしまうことであろう。電車を愛(め)でる遊び心や想像力が、まちや自分自身の再発見につながる。セントラムの車窓からグランドプラザのツリー型イルミネーションがどんなふうに見えるかとても楽しみだ。
フランスのノーベル文学賞作家クロード・シモンの『路面電車』は、車内の情景と車窓の風景とがあいまった心理描写が絶妙だ。マイレールへの愛情がないとここまでは書けまい。セントラムへの期待は大きい。