『christmas mountain わたしたちの路地』 (澪標)
広島の歌人 野樹かずみさん(短歌研究新人賞受賞)の歌と、
京都の詩人 河津聖恵さん(H氏賞受賞)の詩から成る新刊
『christmas mountain わたしたちの路地』(澪標)を、河津さんから
寄贈いただいた。
短歌と詩のコラボは、ありそうであまりないので、意外な感じが
したが、二人の織りなす祈りのようなヴァイブレーションに
心打たれた。
野樹さんは、フィリッピンのゴミ山の麓にあるフリースクールの
支援に関わり毎年のように通ったそうだ。
ゴミ山のそばに廃材の小屋を建て、ゴミを拾って暮らす人々。
そこで繰り広げられる生活は、惨めで、無惨で、ひどく尊い。
あの路地とこの路地はつながっているのだ。
歌人が感知するゴミ山のきらめきに詩人は触発され、詩はひらき
ひらかれつづけた。
さっそく紹介したい。
早朝はいちばん安い塩パンもまだあたたかい涙のようだ
固いパン、ざらざらとしてぺったんこも
塩パン、そこから何を想像できるか
たった一個の
つねにいつもさいごの晩餐
一人の少女を想う
草履の足をうごかしてみる
汗が沁む
朝の風景が生まれる
その町が匂う
少女は喧噪が反響する冷たい柱に背をもたせ
草履をぶらつかせてぼんやりパンの幻を追う
幻のパンは
銃口のようでも宝石のようでも凝結した血のようでもある
彼女は歩き続けてきた
青い静脈のようにはりめぐらされた路地から路地へ
私たちの裸形としてここへやって来た
道すがら
買い叩かれて消えたコーヒーや果実の代わりに
丈高く揺れる毒の草をちぎって口にいれた
私たちの代わりに
その深い無を苦く噛んだ